海外

2024.05.03 08:00

牡蠣を使って海洋汚染を監視、仏のスタートアップ企業

木村拓哉

Getty Images

カキをはじめとする二枚貝が、世界中で海洋の水質や環境悪化を監視している。これらの貝と環境警告システムを繋ぐソフトウェアとハードウェアを開発したフランスのスタートアップによると、この手法は従来の監視システムよりも高感度で長寿命、低コストを実現したという。

「このシステムは、バイオモニタリングと呼ばれるもので、我々は二枚貝を使った水質モニタリングを行っている。用いている貝類は、カキやムール貝、アサリなどだ」と、molluSCAN-eye(モルスキャンアイ)CEOのリュドヴィック・キノーは話す。

このシステムを実現するのは簡単なことではない。生物システムや動物を海洋汚染のモニタリングに使う場合は、まずそれらの異常行動を把握する必要がある。そして、異常行動を検知するためには、通常の行動を理解しなければならない。そのためには、動物のシミュレーションやデジタル・ツインを作って正常で健康な行動をモデル化し、異常行動を検知して伝達するセンサー・システムを構築することが求められる。

モルスキャンアイは、ボルドー大学アルカション海洋ステーションが20年以上に渡って行った研究のおかげで、これを実現することができた。同大学で得られたデータにより、同社は「非侵襲的高周波バルボメトリー(High Frequency Non-Invasive Valvometry)」と呼ばれる、二枚貝の微小な動きを監視できる超高感度なテクノロジーを開発した。二枚貝の動きに不規則性や異常性が見られると、システムは科学者に問題を警告する。

通常の設置においては、16匹の貝に数年間使用可能なバッテリーを備えた小型センサーを取り付け、動物の行動を1秒間に10回測定する。センサーは近くの電子制御ボックスに接続されており、貝からのデータを取得して科学者や技術者に送信する。取得した信号の統計的信頼性を確保する上で最低限必要な貝の数が16匹なのだという。

「我々が用いている微小電極の重さは、水の外では1グラム、水中では10分の1グラムと非常に軽く、貝は何も感じない。これにより、貝殻の開閉など、あらゆる行動をマイクロメートル単位の非常に高い精度で測定することができる」とキノーは話す。

マイクロメートルは、1メートルの100万分の1だ。人間の髪の毛の直径が約50マイクロメートルなので、センサーはその50分の1の小さな動きを監視していることになる。カキやアサリ、ムール貝は、高精度センサーに匹敵する感度を持ち、水中の汚染物質をサンプリングする従来の技術よりも感度が高く、寿命もはるかに長い。
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編集=上田裕資

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