食&酒

2024.04.07 15:00

山中教授と語る「食の先入観」|山中伸弥教授×小山薫堂スペシャル対談(後編)

Forbes JAPAN編集部

たとえ批判を受けたとしても

小山:昆虫食も将来のたんぱく質危機に備えるには必要不可欠ですよね。ただ、同時に「おいしさ」への回帰というか、おいしい食卓を囲む豊かさ、心のゆとりが食の大切な要素であり文化でもあると、あらためて感じるようになりました。

山中:おいしさには味覚、嗅覚、視覚がいちばん影響するのでしょうが、もうひとつ重要なのが記憶ですよね。昆虫食も、食べた経験がない人にとっては「無理!」となるけれど、先入観なしに食べるとおいしかったりする。日本でも地域によっては昔から食べられていますしね。

小山:イナゴの佃煮とか、蜂の子とか。

山中:そういえばサンフランシスコのあるお寿司屋さんは「僕はサンフランシスコでイクラを初めて出した寿司職人です」とおっしゃっていました。30年前、アメリカ人はイクラを食べられず、捨てていた。そこで彼がイクラと何かを組み合わせて出したところ、そのおいしさが評判になり、いまでは多くの人が食べるようになったそうなんです。そうやって抵抗感や先入観をいかに減らすかが大事。小山さんがゲノム編集されたふぐの商品を共同開発されたのも実に画期的なことで、そういうことに挑戦しないかぎり、世の中は変わらない。ただ、食の安全をどれだけ説明できるかも、大きな課題ですね。

小山:どう共感していただくか、理解していただくかですよね。「こうしましょう!」と他人に言われると抵抗を示す人も多いので、世界の食を取り巻く環境を丁寧に説明してから「どう思いますか?」と問いかければ、少しずつ変わるかもしれません。

山中:アメリカの作家エルバート・ハバードはこのように言いました。

「批判を避けるためには、何も言わず、何もせず、何者にもなるな(To avoid criticism say nothing, do nothing, be nothing.)」と。もちろんこれは文字どおりの意味ではなく、「批判を受けたとしても、やるべきことはやりなさい」ということ。挑戦とはまさにそういうことだと思います。

今月の一皿

ナポリタンは横浜「ホテルニューグランド」が発祥。接収時代、米兵の食べているスパゲティから発想を得て考案された。


blank


都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気が置けない仲間と集まる秘密基地。


小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わり、2025年大阪・関西万博ではテーマ事業プロデューサーを務める。

山中伸弥◎1962年、大阪府生まれ。医学博士、京都大学iPS細胞研究所名誉所長・教授。2006年にマウスの皮膚細胞から、07年にヒトの皮膚細胞からiPS細胞の作製に成功したことを発表。12年にノーベル生理学・医学賞、文化勲章を受ける。

写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事