北米

2024.03.30 09:00

「高金利で家が買えない」、米国を襲う住宅ローン金利7%の現実

安井克至

Shutterstock.com

サウスカロライナ州チャールストン在住の不動産業者のデイビッド・ケントは、長年住み慣れた家から引っ越してもかまわないと思っている。子どもたちは成長して家を出たし、ダウンサイジングも魅力的だ。

しかし、ケントは彼が「黄金の手錠」と呼ぶ15年固定ローンで2.35%という恵まれた金利に縛られている。もし、今の家を売りに出せば、他の物件を買わなければならず、金利は7%台に上昇するだろう。その結果、彼はどこにも行けないのだ。

「これほどの金利のギャップは見たことがありません。自然な不動産サイクルが崩れてしまったんです」と、不動産企業リアル・バイヤーズ・エージェントのオーナーであるケントは話す。

米国のエコノミストや政治家はパンデミック後の経済の復活をアピールしているが、それと同時に下向きな世論に困惑している。住宅はかつてないほど高価になり、市場に出回る物件数は史上最低に近い。フレディマックによると、30年固定住宅ローン金利は昨年11月に23年ぶりの高水準の7.79%を記録して以降に、6.88%に下がっているが、それにともなう住宅販売の増加はほとんど見られない。何百万人もの住宅所有者が新居に引っ越すために、2.35%の栄光の日々が戻ってくるのを待っているからだ

11月のバイデン大統領とトランプ前大統領の選挙では、住宅購入の難しさが争点になる可能性が高まっている。全体的なインフレ率は鈍化したものの、この問題が有権者の不満の大きな部分を占めていることに変わりはなく、特に住宅費が際立っている。

ギャラップ社の2023年の世論調査では、米国人の10人に8人近くが「今は家を買うには悪い時期」だと答えており、この割合は同社が1970年代にこの質問を始めて以来最高の数字だった。不動産データプロバイダーであるレッドフィンが2月に住宅所有者と賃借人を対象に行った調査によれば、米国人の半数以上が、住宅の取得のしやすさが投票行動に影響すると答えていた。これはバイデン大統領にとって悪いニュースだ。

全米住宅建設業協会によると、2023年後半に販売された住宅のうち、世帯収入が米国の所得の中央値9万6300ドル(約1450万円)の世帯が経済的に手の届く範囲にある住宅はわずか38%で、同協会が2012年にこの統計を開始して以来で最低だった。

このメッセージは大統領に届いたようだ。バイデン大統領は先日、初めて住宅を購入する人や、スターターハウス(若い夫婦などが初めて買う物件)の売り手に対し、最高1万ドルの税額控除を提案した。また、200万戸以上の住宅を新築する計画も発表した。

専門家によれば、金利が1%でも引き下げられれば心理的な後押しになり、販売の流れが生まれる可能性がある。しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)は利下げに消極的な模様で、エコノミストたちが予想する利下げの時期は最短で6月にずれ込んだ。

富豪たちが住宅価格の高騰を後押し

家が高すぎて買えないというニュースは、全米で報じられている。サンフランシスコから空路で約4時間のボーズマンイエローストーン国際空港の周囲の一戸建ての中央価格は、過去最高の120万ドル(約1億8200万円)で、地元の人々はこの高値を、スキーリゾートを訪れるためにセカンドハウスを購入する「カリフォルニア人」のせいだと非難している。その中には、ビル・ゲイツやジャスティン・ティンバーレイク、トム・ブレイディなどの富豪が含まれる。
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編集=上田裕資

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