AIブームに乗る韓国企業「リノ工業」創業者がビリオネアに

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AI(人工知能)をめぐる投資家の熱狂は、これまであまり注目されてこかった韓国の半導体企業「リノ工業(Leeno Industrial)」の株価を昨年11月以降に70%以上も急騰させた。これにより、同社の創業者でCEOの李彩允(イ・チェユン)は韓国で最も新しいビリオネアとなった。イは、AIチップの大手がひしめく韓国で、AIブームによって誕生した2人目のビリオネアだ。

リノ工業は、ハイテク銘柄が中心のコスダック市場に上場している。現在73歳のイは、同社株式の35%を保有する筆頭株主だ。3月14日の終値ベースでのイの資産額は、10億ドル(約1490億円)と推定される。

韓国の釜山に本拠を置くリノ工業は、チップの不良をチェックする検査装置の部品を製造している。同社の主力製品は、チップをテストするICテストソケットと、チップやプリント回路基板の欠陥をチェックする際に使われるLeeno Pin(リノピン)だ。リノ工業は、サムスンやSKハイニックス、エヌビディアなど、世界で1020社の顧客を持っている。

浮き沈みの激しい半導体業界では、スマートフォンやパソコンの需要の低迷が多くの企業の業績を圧迫している。リノ工業も例外ではなく、2023年1~9月期の売上高は前年比27%減の1976億ウォン(約221億円)、純利益は前年比21.4%減の835億ウォン(約93億円)だった。

しかし、投資家はAIブームによってリノ工業の収益が改善すると見ている。韓国の半導体製造装置メーカーのハンミ半導体は、2023年に減収減益となったにも関わらず、株価は過去12カ月で600%も急騰した。この急騰は、同社の半導体製造装置がAIチップの製造に使われるという投資家の予測が主な要因で、ハンミ半導体のCEOで筆頭株主のクァク・ドンシンは昨年7月にビリオネアとなった。

NPU需要の高まりも業績のプラスに

「オンデバイスなど新しいデバイスの登場や、メタ、グーグル、アマゾンなどによる独自NPU開発による研究開発需要の高まりは、リノ工業の業績にプラスに働くだろう」と、現代自動車証券のシニアアナリストで、リノ工業を買い評価としたジェシカ・クワグは話す。NPUは、深層学習や機械学習のアプリケーション用に設計されたチップだ。

「リノ工業は非常に保守的な会社だが、生産能力の倍増計画を考えると、同社の業績は改善余地が大きい。このため、株価が良いパフォーマンスを示したのだろう」とクワグは指摘した。リノ工業は2022年12月、生産能力を拡大するために、釜山に7万2519平方メートルの工業施設を755億ウォン(約85億円)で取得したと発表した。

同社は、第3四半期の決算書の中で、AIやIoT、AR、VR、自動運転などの普及により、半導体試験装置の需要が高まっていると述べていた。

イは、釜山の工業高校を卒業してから9年後の1978年にリノ工業を創業し2001年に上場させた。彼は、台湾のTSMCの創業者のモリス・チャンや、同じく台湾のメディアテックの創業者のツァイ・ミンカイらに続く、アジアの半導体分野のビリオネアとなった。韓国では、サムスン電子が世界最大のメモリーチップ・メーカーであり、TSMC以外で最先端チップを受託生産できる唯一のメーカーとして知られ、SKハイニックスは、世界第2位のメモリーチップメーカーだ。一方、東京に本拠を置く半導体検査装置メーカーのレーザーテックを創業した内山一族は、フォーブスの「日本の富豪50人」に名を連ねている。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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