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2024.03.14

メタのAI開発トップが語る「10年間の苦闘」とオープンソースの力

メタのチーフAIサイエンティスト、ヤン・ルカン(Chesnot/Getty Images)

フェイスブックの親会社のメタで、チーフAIサイエンティストを務めるヤン・ルカンは「コンピュータサイエンス分野のノーベル賞」と呼ばれるチューリング賞を2018年に受賞した人工知能(AI)の第1人者として知られている。昨年11月に行われたフォーブスのインタビューで彼は、AIブームの現状とその背景について語った。

ルカンは、2022年11月に当時はまだ有名ではなかったOpenAIが、ChatGPTをリリースしたときの世間の反応を覚えている。あらゆる種類のテキストを生成可能なこのチャットボットは、AIをメインストリームに押し上げ、シリコンバレーの新たなブームのきっかけを作った。

しかし、その10年前にメタのAI研究ラボを立ち上げたルカンにとって、その衝撃はChatGPTのテクノロジーそのものに感じるものではなかった。メタは、このチャットボットの基盤技術である大規模言語モデル(LLM)に何年も前から取り組んでいたからだ。その数週間前に、メタは科学論文の執筆に特化したGalactica(ギャラクティカ)という同様のチャットボットをリリースしていたが、AIが生成した回答にでたらめな内容や人種差別的な表現が含まれていたとして酷評され、わずか3日間で公開を停止していた。

そのため、ChatGPTが「救世主の再来」のように称賛されたのを見て、ルカンは苛立ちを感じたことをフォーブスのインタビューで認めている。

「驚かされたのは、彼らがこのようなツールを一般向けに公開し、しかもそれがハイテク大手のものではないことに人々が感心して使い始めたということです」

フェイスブックの親会社であるメタで働くルカンにとって、同社の看板は、精神的な重荷になっていたはずだ。フェイスブックは、何年もの間、選挙妨害や偽情報、10代の若者のメンタルヘルスに与える影響などの論争に悩まされてきた。その結果、同社はワシントンの政治家や規制当局の格好の標的となり、多くの人々の信頼を失った。

そのことは、メタの研究に対する世間の認識にも影響を与えたと思いますか? と筆者が尋ねたところ、ルカンは一瞬「ノー」と言いかけたが、途中でそれを認めた。

「会社は、イメージの問題からは徐々に回復しつつあります」と、彼は笑いながら話し「状況は良くなっています。ネガティブな動きが少しあったのは事実ですが」と語った。

いずれにせよ、ChatGPTが拍車をかけたAIの軍拡競争は、メタのラボであるFAIRにとって新時代の幕開けとなった。2013年に「Facebook AI Research」として発足した同部門は、フェイスブックがメタに社名を改めたタイミングで、FAIRという略称は以前のままで「Fundamental AI Research」という名称に変わった。設立10周年を迎えた同部門は今では、メタの最も重要な部門の1つとなっている。
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編集=上田裕資

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