宇宙

2024.03.04

天の川銀河の起源をたどる「バーチャル宇宙」、南米の天体物理学者チームが構築

天の川銀河(銀河系)の渦状腕やバルジなどの構造を詳細に示したイラスト(NASA/JPL-Caltech/ESO/R. Hurt)

南米のチリは、まぎれもなく光学天文学の世界的中心地だ。北部の乾燥地帯の全域にわたって、国際的な天体望遠鏡や天文台が設置されている。だが、多数の観測施設を有しているにもかかわらず、理論天体物理学の拠点としての評判は、まだ追いついていない。

数値シミュレーションを用いた国際的な共同研究で、こうした状況を全面的に変えようと試みているのは、アルゼンチン出身で数学者から転身した2人の天体物理学者、パトリシア・ティセラとスサナ・ペドロサだ。シミュレーションの目的は、文字どおり0と1のバイナリーコードで構成される仮想的な宇宙を構築することだ。

国際共同研究プロジェクト「CIELO」は、銀河がどのように形成されるか、特に銀河系がどのように形成されたかを研究するための仮想宇宙の構築を目的としていると、CIELOの研究責任者で、チリ・カトリック大学の天体物理学者のティセラは、首都サンティアゴでのインタビューで語った。



アルゼンチン、チリ、スペインによる共同研究プロジェクト「CIELO(銀河と宇宙網の化学力学的性質の頭文字、スペイン語で空の意味)」は、立ち上げがコロナ禍前で、今後少なくとも5年間は継続される見通しだ。

各シミュレーションで使用する膨大な粒子は、大量に分布する質量の数を表している。

この数値実験の結果が出たら、観測と比較すると、ペドロサはブエノスアイレスにある自身のオフィスでの取材で語った。ペドロサはCIELOチームの一員で、アルゼンチン国立科学技術研究会議(CONICET)とブエノスアイレス大学(UBA)の研究天体物理学者だ。

これにより、モデルに改良を加え、不足している物理過程を特定して組み込み、観測データに照らして検証できるような予測を立てることが可能になると、ペドロサは説明した。

どのように機能するのか?

速度、質量分布、温度、恒星および恒星の周囲にあるガスに含まれる化学元素などをシミュレーションで測定し、観測と比較すると、ティセラは説明する。この比較から、想定した仮説が正しいかどうか、修正の必要があるかどうかを知ることができる。

この作業には終わりがないと、ティセラは表現している。

銀河系の初期段階に、初期宇宙からのガスと塵(固体微粒子)が、銀河系のダークマターハローの中に流れ込んだ。ダークマターハローは、ダークマター(暗黒物質)が銀河を取り囲むように自己重力で集まった仮想的な領域だ。このハローによって引き寄せられたガスと塵が、銀河系の最初期の分子雲を形成し始め、やがてこの分子雲内で星形成が起きた。
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翻訳=河原稔

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