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2024.04.09 09:15

OEM100%から内製率60%へ 「竹の箸」が海外で勝ちまくる理由

石井節子
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「僕が実店舗を始めると言い出した当初、周囲には強く止められました。人口1万人を切っている地域でファクトリーショップをやっても採算が合わない、せっかく製造販売の事業が上手くいっているのにどうして……と。でも、上手くいっているときほど次の手に意識が向く、そういう性分なんですよね」と苦笑するが、それ以上に勝算があった。

2020年に開催した「大日本工芸市 ot 熊本」では、日本を牽引するものづくりのトップランナーが集い、3日間で2000人以上の来場者を記録した。「良いコンテンツを作り込んで発信できれば、場所を問わずお客さんは来てくれる。そんな確信がありました」

取材は平日の午後だったが、店には絶え間なく買物客が訪れ「前から気になっていたから」と作業着姿の男性客がひょっこり顔を出すと、美味しそうにスイーツを頬張る。売り上げは、目標としていた百貨店やイベント出展の日商と同水準を実現しているそうだ。「地元の材料で、地元の人間が造っている箸を、日本中のどこよりも地元の皆さんに届けたい」山崎さんの願いは、確かに実を結びつつある。

OEM100%から自社割合60%超へ、真逆の方向へ舵を切る勇気

ヤマチクは世界で唯一、竹の箸のみを商材にしている企業。まずは、「切り子と呼ばれる熟練の職人たちが、17〜20mの竹の大木から良質な竹を見極め、切り出し、素材として整える。その素材を専用の機械で加工し、高品質の箸を生み出すのが同社の事業だ。竹の曲がり方や反り方も考慮しながら、硬く強度のある皮部分を生かして職人たちが精密に箸を仕上げていく。軽く、美しく、手頃な価格の竹箸が、これだけの手間と技術に支えられていることを知っている人は、決して多くはないだろう。
写真(竹を背負う職人)

写真(竹を背負う職人)

乱立する竹を伐採して整えることは、里山の生態系や景観を守る意味でも、重要な役割を果たしている。しかし、安価な木材やプラスチック製箸の台頭によって、国産の竹の箸を造れる企業はごく僅かになってしまった。そんな状況下にあって、OEMとして大手ブランドを取引先に持ち、売上規模も順調に拡大していたヤマチクが、自社プロダクトの開発に乗り出した理由は何だったのだろう。大学卒業後SEとして大阪で働き、24歳で南関町に帰ってきた山崎さんは、好調の裏に潜むリスクを敏感に感じ取り、すぐさま対策に打って出た。

「僕が帰ってきた10年前、売上高は過去最高でした。でも、特定の取引先への依存度が急激に上がっていることに危機感を覚えたんです。好調な今のうちに動かなければ間に合わない、という切迫感がありました。そこで、当初はOEMという枠の中でできること、リスクを分散することを考えたんです」

当時、ヤマチクはOEMが売上の100%を占めていた。「しばらくはOEMで頑張ってみましたが、OEMは利益率が低く、労力の割に手元に利益が残らない。思い切って自社製品に挑戦しようと考えました」

そうして2019年に生まれたのが 伝統的な竹の箸への原点回帰/日々の食卓に寄り添う/生育が早く循環性の高い竹を資源とすることで山と竹材を扱う人々を守るという3つのコンセプトを形にしたオリジナル竹箸「okaeri」だった。「もちろん、僕を含め社内にマーケティングやブランディングができる人間はいませんし、当時は社内に自社製品という概念すらなかった。そこで、クリエイティブディレクターさんに協力してもらって、ゼロから言語化、ビジュアル化を進めていきました」
写真(okaeriパッケージ)

写真(okaeriパッケージ)

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文=井関麻子 写真=大塚淑子

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