暮らし

2024.04.09

OEM100%から内製率60%へ 「竹の箸」が海外で勝ちまくる理由

1963年の創業以来、半世紀以上にわたって熊本で竹の箸を造り続けている箸メーカー「ヤマチク」。OEM100%から、わずか5年で自社商品の売上比率を60%まで増やし、「ペントアワード」や「ニューヨークADC」など、世界に名だたるコンペティションでの受賞歴を持つ、注目の企業だ。そんなヤマチクが、昨年11月11日“箸の日”に待望のファクトリーショップをオープンさせた。その名は「拝啓」。コーポレートアイデンティティでもある「竹の、箸だけ。」を貫きながら、多層的な広がりを見せる同社のユニークな生存戦略とは。専務取締役として、ブランディング・セールスを主導する山崎彰悟さんに話を聞いた。

竹箸の魅力を余さず伝えるファクトリーショップが誕生

熊本県北部、福岡県との県境に位置する玉名郡南関町。人口9000人余りの小さな山間の地に、年間500万膳もの国産竹箸を造り続ける箸メーカー「ヤマチク」はある。2023年に創業60年の節目となる“還暦”を迎えた同社が新たなチャレンジとして選んだのが、ファクトリーショップの運営だ。

竹箸の製造工場に隣接する「拝啓」は、自社オリジナルの竹箸と日本各地のクラフトアイテムを取り扱い、カフェスペースでは箸で食べるスイーツを提供する、ユニークな店舗。店内には多彩な色柄やフォルムの箸、アパレルブランドの別注として企画した「ヤマチク×URBAN RESEARCH OTEMOTO for Ramen Lovers」や「ポテトチップスのためのお箸」など、約300種類の竹箸が並ぶ。実際に使い心地を確かめられるコーナーもあり、何種類も試してみたくなるが、山崎さん曰く「それこそがショップで買物を楽しんでもらう醍醐味」なのだとか。

「オンラインショップにもっとも多く寄せられる質問は『この箸はどこで買ますか』なんです。不思議ですよね。実店舗に行かずに買物ができるプラットフォームなのに、リアルで見たい、触れてみたいという欲求が生まれるなんて」と朗らかに笑う山崎さん。自社の箸は全国各地のライフスタイルショップや百貨店でも販売しているが「地元の人がいつでも箸を購入できる場所、竹箸の魅力を世界一深く伝えられる場所を」と考え、オープンを決めた。

箸で食べるスイーツを提供するカフェも、竹箸の魅力を伝える取り組みの一貫だ。レシピの監修には熊本在住の料理研究家・高山由佳さんを迎え、南関町の名物である「南関そうめん」のふしを使った素朴な甘味、熊本名物「黒棒」を使ったティラミスなどを提供している。

「南関そうめんのふしは、そうめん屋さんの子どもにとっては慣れ親しんだものだそうですが、南関町全体ではあまり知られていなかったんです。でも、黒蜜ときな粉をかけたらとっても美味しいでしょう? 今後は、卵かけご飯やミネストローネなど、軽食メニューも増やしていく予定です。切る、掬う、摘む、混ぜるといった箸の動作を、お茶や食事を楽しみながら体験してもらえるよう、メニューを構成しました」

実際に食べてみると、想像以上にスムーズ。食べづらさは微塵も感じられないどころか、箸を口元に運ぶ動作にリズムが生まれ、食べる行為を純粋に楽しんでいることに気づく。思わず、まじまじと箸を見つめ「この箸はどこにあるんだろう」と陳列された箸に視線を向けると、山崎さんと目が合いニコリと微笑まれた。

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文=井関麻子 写真=大塚淑子

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