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2024.02.29 14:45

「貿易赤字1.8兆円」のメドテック。それでも日本が世界で勝てる理由

Forbes JAPAN編集部

朝日サージカルロボティクスの手術ロボ「ANSUR(アンサー)」を操作する国立がん研究センター東病院副院長の伊藤雅昭。代表取締役社長の千葉和雄 (左) と最高開発責任者の安藤岳洋が見守る。

日本の医療機器産業は、長く貿易赤字にある。この状況を脱し、世界で存在感を高めていくには何が必要か。Forbes JAPANは「HEALTHCARE CREATION AWARD」と称し、医療界の4人と、未来の日本を率いる医療スタートアップ企業を探し始めた──。


1兆8120億円──。これは2021年の日本の医療機器における貿易赤字額だ。オリンパスやテルモ、キヤノンメディカルシステムズといった世界的な医療機器メーカーが存在し、国民は公的な医療保険制度のもと3割負担で治療が受けられる。一見、医療先進国にも感じられるが、医療機器は長らく輸入超過にある。

世界の医療機器市場は米国が40%と圧倒的に大きく、そのあとに欧州が10%、日本が8%と続く。世界の医療機器メーカーの時価総額ランキングを見ても、上位は軒並み米国が占めている。

医療産業が弱いわけではない

なぜ医療機器は輸入超過となっているのか。医療機器メーカー、テルモ元会長の中尾浩治はその理由として「疾病構造の歴史的な違い」を挙げる。欧州や米国では1960年代に循環器系の疾病が増えた。欧米型の食生活は、動脈硬化や不整脈といった血管や心臓にかかわる病気を引き起こす。患者の急増に伴い、治療機器の開発も進んだ。ところが日本で循環器系の疾患が増えたのは80年代になってからだったため、循環器系医療機器の開発で欧米に後塵を拝したのである。つまり、日本の医療産業が競争力を失ったことで輸入超過となっているわけではないということだ。

中尾はこう断言する。「まだ日本は本格的な競争をしていない。スタートアップや中小企業でも海外でシェアを獲得できる会社はある」。そこでForbes JAPANでは「ヘルスケアクリエイションアワード」と称し、中尾とともに、未来の日本を率いる医療企業を探し始めた。多様な視点で企業の推薦や審査を行うべく、次の3人にも審査員を依頼した。

FDA(米国食品医薬品局)で医療機器医学審査官を務めた経験をもち、サナメディ(旧 日本医療機器開発機構)の創業者でありながら現在も循環器内科医として勤務する内田毅彦。上皇の心臓バイパス手術のチーム責任者を務めた東京大学心臓外科教授の小野稔。帝人ファーマ生物医学総合研究所上席研究員を経て、CBI研究機構量子構造生命科学研究所所長を務める上村みどり。

本アワードでは、医療機器や医療機関向けのサービス、消費者向けのヘルスデバイスを手がける成長企業をメインに企業リストを作成し、審査基準には「グローバルでの成長可能性/成長性」「医療的インパクト」「新規性」「日本での事業成長度」の4つを設けた。
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文=露原直人 写真=佐々木康

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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