CEOs

2024.02.01 09:30

ペイパルの成功は「従業員の幸福が第一」の理念から

日下部博一
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ノースカロライナ州で「トイレ法」(同州の公共施設でトランスジェンダーの人々に出生証明書に記載された性別に合わせたトイレ使用を義務づける州法)が可決されたとき、シュルマンはこの法律が性的アイデンティティに基づく差別につながると考えた。当時、ペイパルは同州に大きなオフィスビルをオープンしようとしており、その数週間前にシュルマンは知事と記者会見を持った。「私は進めることはできないと言った」とシュルマンはハースに語った。「我々の価値観とは相容れない。殺害の脅しにつながるとは思わなかった。私はトイレに入るたびに個室を探した。企業は変化をもたらすことができる。間違った決断だと思う人もいたし、それは理解できる」

シュルマンは、ペイパルのユーザーが暴力を擁護する場合、そうした人のアカウントを凍結することについても語った。ペイパルは膨大な数の顧客を抱え、何百万もの組織が資金集めのためにペイパルのサービスを利用している。だが、暴力を擁護する者は容認できない。

「暴力を擁護する人々へのサービス提供はしない。それは許されない」とシュルマンは語った。

これは民間の組織にとっては危険なコースかもしれない。特定の顧客に製品やサービスを提供することの性質や社会的影響の予測に基づいて、誰にサービスを提供するか、しないかを決めることは、まったく賢明ではない。市場の大きな層を遠ざけてしまうリスクがあるからだ。たとえそうであっても、民間企業には、顧客にサービスを提供したり、拒否したりする権利がある。ペイパルは便利なものだが、金融資産にアクセスする唯一の手段ではない(Google ChromeではGoogle Payで簡単に支払いができる。また、Venmoでも同様に簡単に送金し、商品やサービスの代金を支払うことができる)。市場の圧力により、顧客は規則がもっと緩いプロバイダーに移ることができる。規則はプロバイダーによって異なる。CEOとしてのシュルマンの行動は、会社の掲げる目的と価値観に従っている。

だが、シュルマンの見識あるリーダーシップの核心は、従業員の経済的な充足に向けて専心することに見られる。ペイパルは、従業員が実際にどの程度、経済的に安定しているのかを調べ、質問した。そして従業員の多くが経済的にぎりぎりであることがわかり、従業員がより豊かな未来を手に入れるのに必要なものを与えるための措置を講じた。これは、すべての企業が見習うべきモデルだ。

これがマルチステークホルダー資本主義の枠組みだ。企業が重要なステークホルダー(利害関係者)との関係をすべて最適なものにしたとき、良いことが起こる。ペイパルは、従業員やその他の重要なステークホルダーを大切にすることで、それを明確に示した。同社は持続的に素晴らしい業績をあげ、優れた利益と長期的価値を創造できる道を見出した。

「従業員が経済的に苦しいかどうかを把握した上で、何か措置を講じなければならない」とシュルマンは言う。「企業のリーダーとして、私たちには責任がある。すべての問題の解決を政府だけに求めることはできない。政府は政府の問題を抱えている。それでは麻痺であり、盲従だ」

ダン・シュルマンは、労働者の声に耳を傾け、労働者のニーズを満たすために変化を起こすということに関して、一貫して言葉通りに実行してきた。筆者は、シュルマンに続いて他の企業のトップも、従業員によって生み出される価値を従業員たちが共有できるように、そしてもちろん、株主を含むすべてのステークホルダーの利益のために、どのように変化をもたらすことができるかを考えることを願っている。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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