2024.02.03 10:30

ビリオネアが細部にまでこだわって創ったホテル「ザ・ニュート」

鈴木 奈央

メインの館「ハドスペン・ハウス」

ホテル「ザ・ニュート イン サマセット」、それは1つの町である。イングランド南西部・サマセット州は、古代ローマ人も暮らした温暖な地域として知られる。そこに約400ヘクタール(東京ドーム87個分)の敷地というから、途方もない広さであることだけは想像できる。俯瞰してみれば、丘あり谷あり川あり滝あり森林ありという風情だ。ある意味、世界最大の面積を有するホテルの一つと言えるかもしれない。

最近、新しいニュースが4つ加わった。1つは2023年からはじまった「World Best 50 Hotels」、つまり世界中のホテルからベスト50軒を選ぶアワードで、37位にランクインしたことである。さらに同ランキングでの「カルロ・アルベルト・ベストブティックホテル」(世界1位)を受賞。イギリス国内のブティックホテルを対象にした「Top 50 Boutique Hotels」でも首位を獲得した。

最後のニュースは、最寄りのキャッスル・ケリー駅の駅舎を購入したこと。駅舎内にはチーズやヨーグルトを製造するクリームリーを建設中で、レストランやショップも併設される。2024年春に完成予定だ。

ロンドンっ子も羨むホテル

イギリス人の自然やガーデン好きは、私たちの想像の及ぶ範囲をはるかに超えるが、普通のレベルを超える本格的な自然とガーデンを備えるのが「ザ・ニュート」だ。そもそも、建設中に新種のイモリ(ニュート)が発見され、工事は中断した。それでいっそのこと、ホテル名を「ニュートにしよう」となった。

ロンドンなどで、「今度、ザ・ニュートに行くんだ」などと漏らそうものなら、どうにかされそうになるくらい羨ましがられる。実際に、「イギリスでいちばん好きなホテル」と言って憚らないロンドンっ子もいた。

広大な敷地の中に何があるのか。様々な様式のイングリッシュガーデン、ガーデンミュージアム、ローマ風呂の遺跡、再現されたローマ時代のヴィラ、約600本のリンゴの果樹園、サイダー(シードル)の醸造場、パン工房、ファームショップ、羊300頭の放牧地、100頭の鹿が住む丘、スパ施設、プール、ジム、そして宿泊施設だ。宿泊施設はほんの一部でしかない。

「ハドスペン・ハウス」に向かうメインの通路。両脇の建物は客室棟だ。

筆者はかつて、コッツウォルズと湖水地方に点在する名だたるマナーハウスを巡ったことがある。マナーハウスとは、簡単に言うとかつての貴族たちの別荘で、現在はホテルに転用されているケースが多い。その豪壮さにはしばしば驚かされるが、とても趣味が良い。「ザ・ニュート」もそうしたイギリスの文化と伝統の延長線上にあるものだ。しかも、それを究極まで突き詰め、超弩級にしたものだと言える。
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文=石橋俊澄(コントリビューティング・エディター)

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