働き方

2024.01.22 10:00

「次は自分かも」 人員削減の予告が従業員のメンタルヘルスにもたらす影響

日下部博一
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迫り来る解雇という暗雲が立ち込める中で、従業員は水責めによる心理的な拷問のように感じられる(そこまで厳しいものではないとはいえ)職場環境に直面することになる。水責めは100年前から行われている、囚人の顔に水をかける拷問だ。囚人は溺れるような感覚といつ終わるかわからない不安を経験しながら徐々に狂っていく。

解雇を免れた残留組は毎朝、今日が会社での最後の日になるのではないかと心配するだろう。引き受ける仕事はすべて地雷となるおそれがある。ミスしたり、主要な顧客を失ったり、会議で間違った発言をしたり、ビデオ通話を欠席したり、あるいはリモートワークの継続を望んだりすれば、次の解雇のターゲットにされるリスクを抱えることになる。

人手不足による仕事の増加と頭から離れない不安が相まって、将来に対する絶望感が職場に広がり、残留組のやる気を失わせ、生産性を低下させる。

昇給を伴わない責任の増大は、やがて従業員の忠誠心を蝕む。仕事に全力を尽くす代わりに、従業員はリクルーターや新たな機会を探すようになる。

沈みゆく船に最後まで残りたいと思う人はいない。そのため、従業員は最悪の事態を想定する。もし経営者が、退社する従業員の後の補充を計画していなかったり、派遣社員や契約社員の活用を検討していれば、残った従業員は、会社が世間に公表しているよりもずっと大きな財政上の問題を抱えているのではないかと考えるだろう。

追加でプロジェクトを引き受けさせられ、長時間労働を強いられるほど、残った従業員は怒り、不満を抱え、憤りを募らせる。

リクルーターはサメのようなものだ。ひとたび血のにおいを嗅ぎつけ、ある企業が苦しい状況に陥っていると聞けば、リクルーターは優秀な人材を一人ずつ引き抜き始める。いつの間にか、優秀で有望な人材はいなくなっている。そうした人材は優れたスキルを持ち、評判もいいことから多くの選択肢を持っており、通常最初に会社を去る。

そして組織には、誰も欲しがらないさほど優秀でない人材が残る。仕事の質は低下する。従業員は手薄になり、耐え兼ね、顧客や取引先への対応が不十分となる。その結果、顧客や取引先は他社と仕事をするようになり、これが打撃となって会社は下降スパイラルに陥る。

何をすべきか

賢いリーダーは、なぜ解雇が必要なのかを速やかに説明し、見通しを共有しなければならない。従業員がどのように感じているかを、自ら従業員に接触して把握し、新たな状況に照らして、何を変える必要があるかを確認するべきだ。経営陣は従業員からのフィードバックに基づいて、組織に残る従業員の労働生活を維持し、向上させるための対策を取らなければならない。

残留組は、解雇を免れたことで罪悪感に苦しむことが多い。なぜ自分はクビにならなかったのかと思う一方で、解雇された人たちに対しては自責の念に駆られる。このような残留者は、健全な考え方を維持し、継続的な解雇による心理的悪影響を軽減するための支援を求め、乗り越えることが大事だ。新しいチャンスを積極的に探し、セルフケアを実践しなければならない。

従業員のメンタルヘルスをどのように支援するのか、また、大量解雇ではなく複数回にわって人員削減することの利点について、グーグルにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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