アジア

2024.01.08 09:00

中国、習政権のゲーム規制案は世界経済への「ストレステスト」

安井克至
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当時、マーは事実上「消され」たマーが率いる中国トップのフィンテック企業であるアントグループが計画していた新規株式公開(IPO)は棚上げされた。その約350億ドル(約5兆円)の上場は史上最大となるはずで、シリコンバレーの新たな悪夢としての中国の到来を告げるものだった。

良かったのは、アントグループが中国の金融の野望に対し、最も目立つところでの上場で応えようとしていたことだ。アリババの2014年のニューヨークでの新規株式公開とは異なり、アントグループは上海と香港での二重上場を計画していた。ウォール街を飛び越えるというメッセージだったのだろう。

識者によれば、マーの罪は2020年10月に行った上海でのスピーチにあるという。マーは金融規制当局がハイテクを理解していないと非難し「この世界ではリスクなくしてイノベーションはない」と主張。また、オールドエコノミーでの担保に固執する中国本土の銀行経営を「質屋」のようだと指摘した。

共産党の重鎮たちは、マーが沈黙を強いられていたわけではないと主張した。中国は単に、インターネットプラットフォームを政府が正しく規制できるようにしたかっただけというのが言い分だった。テック分野の投資家は習の行動について異なる見方を示した。それは、党が賛成しない限り民間企業が繁栄することはないということだ。

2021年の政府の行動は、その認識を単に強めるだけだった。規制当局はバイドゥ(百度)やディディチューシン(滴滴出行)、JD.com(京東商城)、テンセント(騰訊)などのインターネット企業を追及した。中国で最も革新的な企業が政府の支配下に置かれ、ウォール街の銀行は中国が「投資不可能な国」になるのではないかと考えざるを得なかった。

習は賢明にも、2023年の大半を費やして、中国はビジネスのために開かれていると再び主張した。それどころか、おそらくテック業界の混乱も念頭に置いていたのだろう。習は3月に李強を首相に指名することにより、この点を強調した。
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翻訳=溝口慈子

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