被災地から「#障害者を消さない」 能登半島地震を受け、ヘラルボニーが発信

田中友梨

ヘラルボニー創業者の松田崇弥、松田文登

元旦に発生した令和6年能登半島地震を受け、ヘラルボニーは1月3日、障害のある人のための災害情報を届ける活動「#障害者を消さない」をスタートした。

災害時に役立つ情報をキュレーションしたポータルサイトを立ち上げたほか、ハッシュタグ「#障害者を消さない」を使ってSNS上での情報共有を促進している。

避難所に「いられない」

発案者は代表取締役Co-CEOの松田崇弥。松田は2011年の東日本大震災発生時に、地元・岩手県に住む母親から、障害のある被災者の避難の現状を聞かされていた。避難所での生活が難しく、かといって倒壊の危険性がある自宅にも戻れない中で、自家用車の中で避難生活を送るしかない被災者がいたという話だった。

知的障害や発達障害など障害のある人のなかには、突然の環境の変化に対してパニックを起こして大声を出したり、落ち着きを失ったりする人がいる。実際にヘラルボニーが契約する作家の中にも、毎日欠かせないルーティンがある人や、周囲の音を気にしないようするためヘッドホンをして過ごす人がいるという。

東日本大震災から10年以上経ってもなお、そういった障害者の特性については健常者の理解が進んでいないのが現状だ。2021年3月時点でNHKが障害のある人を対象に行った調査によると、災害が起きたときに「いつ避難するか」を決めていないという人は最も多く41.3%。「避難しない」と考えている人も16.9%いた。その理由として、移動の難しさや避難所の環境の問題、周囲の理解の少なさが挙げられている。また、「災害が起きたとき、最寄りの避難所に行くか」という質問に「行く」と答えた人は半数弱だった。

なお、2013年6月の災害対策基本法の改正により、市町村は一般避難所に避難しづらい障害者・高齢者のために、福祉避難所を指定するよう義務付けられた。ただ、数が限られていたり、人手不足だったりといった課題がある。

松田は、今回の令和6年能登半島地震でも、障害のある人が避難所から追いやられてしまったり、障害者側が「健常者と同じ場所には(迷惑をかけてしまうので)いられない」と去ってしまったり、といった懸念があると考えた。

そこで地震発生当日に、社内の有志を集めて活動を始動。「一般の人たちに障害者の置かれている状況を理解してもらい、適切なサポートが得られるようになること」、「信頼性のある情報と実質的な行動を通じて、災害時に障害のある人たちが見過ごされることなく、支援を受けられる環境を構築していくこと」を目指した。

「静かにできないのか、集団だぞ」

ポータルサイトでは、絵記号を指差して話ができる「災害用コミュニケーションボード」や障害者の特性を伝えて支援しやすくするための情報シートなど、ツールやガイドラインのリンクを掲載。

SNSでは、ヘラルボニー公式Xアカウント宛に「#障害者を消さない」を付けて投稿してもらう形で、災害時に必要な情報・困りごとを募集。

すでにこのハッシュタグには、東日本大震災のときに息子が不安から騒ぐことがわかっていたから「避難所には行けなかった」という声や、次男が避難所で大声で叫び、いきなり笑いだして走ったことで、「黙らせろ」「静かにできないのか、集団だぞ」と怒られて避難所を出た、という体験談などが寄せられている。

さらにこの活動に賛同する声も増え、1月5日時点で松田崇弥・文登兄弟の呼びかけ投稿には、118万ものインプレッションがある。



ヘラルボニーは、この取り組みを一過性の活動にするのではなく、別の災害時にも早急に始動できるように整備していく方針。SNSを起点にムーブメントを起こし、理解の輪を広げていく。

文=田中友梨

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