フジロックや米空軍も採用 米美容師発「切った髪の毛」の思わぬ用途

露原直人

美容師のボランティアとヘアマット

美容室で散髪された髪の毛を見て、「もったいない」と思ったことはあるだろうか。

アメリカとカナダでは、毎日31.5トンもの髪の毛が美容室から捨てられている。こうしたなか12月19日に「無駄」を「価値」に変える取り組みをする団体が「一般社団法人マター・オブ・トラスト・ジャパン」が日本で設立された。

同団体は、美容室から廃棄される髪の毛を活用した「ヘアマット」なる製品を作っている。その驚きの用途とは何か。新たなサーキュラーエコノミーの実現を目指す、代表理事の濱七彩子(はま・ななこ)と理事の舘香織 (たて・かおり)に話を聞いた。

NASAが効果を実証したヘアマット

──髪の毛のリサイクルに着目した理由を教えてください。

濱:マター・オブ・トラストは、もともとアメリカ・サンフランシスコを拠点とする団体で、私たちはその日本支部を新たに立ち上げました。髪の毛を活用したオイルマットの製造は「クリーンウェーブプロジェクト」と呼ばれていて、もともと一人の美容師のアイデアから始まっています。アメリカのヘアスタイリスト、フィル・マッコーリーが1989年に起きた、海洋原油流出事故の報道で、原油で覆われその周囲から油がなくなっていたカワウソを見て、動物の毛と同じように人毛も流出油を吸収するのに有効なのではないかと気付いたのです。その後、ヘアマットの油吸着の効果は、NASAをはじめ複数の研究機関によって実証されました。

日本での活動は、2020年にモーリシャス沖で起きた日本の貨物船の原油流出事故での彼らの活動を知ったのを契機に始まりました。

最初は、彼らを支援したい一心で始めたのですが、彼らが日本拠点を作るパートナーを探していたこともあり、日本のパートナーとなりました。その直後にコロナが発生して活動できない時期が続きましたが、コロナが収束してきた2023年1月に舘が参加することになり本格的に活動を始めました。

フジロックや廃油田で活躍

──日本でのヘアマット製造はどのように進めていますか?

舘:現在は、東京都内の近隣の美容室から髪の毛を回収して、週に1~2回ほど、ヘアマットの製造を進めています。製造工程は、環境問題の啓発も兼ねて、ボランティアの方々にも協力いただいています。髪の毛の寄付を呼び掛けると全国の美容室から協力の申し出がありましたが、現状は製造作業が追いつかないためこちらで量を調整しています。

完成したヘアマットは、2023年7月に開催された日本最大級のロック・フェスティバル「フジロック」でも活用されました。フジロックは4日間で11万人もの動員があり、多数の飲食店が出店します。こうした飲食店の洗い場などから出る大量の排水を浄化するのにヘアマットを活用しました。「人間が出す排水を髪の毛で作られたヘアマットで浄化する」。新しい循環型社会の形です。また、スキー場など自然豊かな場所で開催される野外フェスは、ごみや廃棄物の問題が懸念されますが、その解決にも一役買っています。
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文=尾川真一 編集=露原直人

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