クリエイターをどう育てる? 日本のエンタメビジネスの未来

田中友梨
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:いかに「消費」で終わらないか、というのは重要ですよね。漫画の場合、収益ポイントは、コミックスと、アニメ化、グッズ展開などの2次利用時。つまり、その作品にのめり込んでファンになってもらわなければ、長期的に収益を回収し続けることができないんです。だからこそ、作品のストーリーやキャラクターが魅力的で、何度も読み返したいと思うような作品が一番強い。

渡辺: SNSは入口としては大事だけれど、消費されて数年後には“あの人は今”状態になってしまう危険性もある。僕たちも、キャラクターの人格や世界観の奥行きを伝えていくためにSNSの外に出て別のプラットフォームでのコンテンツ展開が必須だと考えています。

アニメ化はもちろんですが、最近は書籍コンテンツの重要さを一層感じています。デジタルな時代だからこそ、手に取って感じられる実体があることは、接触頻度を高めたり絆を深めるために大切だと思っています。

また、第一想起を作れる音楽もとても大事。『ちびまる子ちゃん』の「おどるポンポコリン」、『ドラゴンボール』の「CHA-LA HEAD-CHA-LA」のような、この音楽といえばこのキャラクターだよね、という主題歌を作っていきたいと思っています。

世界でヒットする作品とは

:海外進出はとても意識していて、15年ほど前から自宅の冷蔵庫に「世界に届く、世界に残る仕事」と目標が貼ってあるくらいです。作家さんのパッションがストレートに届くという意味では、“絵”で伝えることができる漫画は有利です。中でもアクション系漫画は届きやすく、『ドラゴンボール』や『キャプテン翼』がグローバルヒットしたのもそうした理由かなと思います。

僕はこれまで「日本の文化的バックグラウンドや文脈を知らなければ楽しめない作品は、世界に届かないだろうな」と判断していました。でも『推しの子』が海外でヒットしたことで、それは違うのかもと思いつつあります。

背景にあるのは、日本のアニメの力が増していることと、世界的な文化が平均化していることでしょうか。ハリウッドの女子高校生も、ブラジルの男子高校生も、韓国ドラマを観て北米のヒットチャートを聞いている時代です。日々触れているコンテンツの半分ぐらいは、世界共通になってきているんじゃないかという感覚があります。

だからこそ日本の漫画も、もうまもなく世界に正しく発見されるのではと思うんです。メガヒットのタイトルだけが海を超えるんじゃなくて、ニッチな作品まで“表現の幅”ごと届くのではと。実際にこの10年で日本よりも海外での売上が高い作家が増えています。日本では3~4万部しか売れていなくても、全世界で合わせて20~30万部売れている作家もいます。
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文=堤美佳子 取材・編集=田中友梨 撮影=平岩亨

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