アジア

2023.11.05 09:00

「人口減少」でさらに遠のく中国の覇権 経済の苦難は深まる一方

遠藤宗生
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退職者が十分な年金収入源を持っているか、それとも年金以外の公的支援に頼っているかの区別は、ここでは重要でない。マクロ経済学の視点から見れば同じだからだ。どのみち、現役世代が退職後世代の衣食住、医療その他のニーズを満たさなくてはならない。こうした負担が重くのしかかるなかで、中国がなお相当な経済余剰を生み出して、輸出を増やしたり、急速な経済成長に必要な投資プロジェクトを進めていったりできるとは考えにくい。

負担を軽減する方策がないわけではない。たとえば生産性の向上だ。ソフトウェアや人工知能(AI)などを活用すれば、少ない労働力でより多くの成果を生み出せるかもしれない。とはいえ、この問題に関して、生産性の向上でできることには限界がある。

中国では若者の失業率の高さが大きな問題になっているが、職にあぶれている若者たちが労働力不足の解消の切り札になるのかと言えば、それも期待できない。中国で今日、雇用に不向きな人の大半は大卒者で、勤労意欲が低いからだ。彼らを支援すれば、むしろ労働者の負担が増す結果になるだろう。

移民はどうか。理論的には助けになりそうだが、実際は中国でぜひ働きたいという外国人は少ない。それどころか、中国に入ってくる移民の数よりも、中国を離れる国民の数のほうが多いのが実情だ。

中国政府は過去の過ちを認め、現在はもっと子どもを産むことを奨励している。だが、国民が「二人っ子政策」に応じたとしても、中国の労働力に影響が表れるのに15〜20年はかかるだろう。さらに言えば、この政策の導入後も出生率の低下には歯止めが掛かっていないようだ。

人口動態は中国が抱える経済問題のひとつにすぎないが、極めて重要であり、あらゆる意味で根本的なものでもある。中国は少子高齢化問題をすぐには解決できそうにない。長期的な成長目標を達成できるほど早い解決はまず望めないし、まして経済と外交の覇権を握るという野望の実現で手遅れになるのは言うまでもない。

forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

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