経営・戦略

2023.11.08 09:00

米国海苔売上げ、国内比3倍。山本山当主に聞いた「カリフォルニア巻き」誕生顛末

石井節子

「米国の胃袋人口は日本の10倍」と話す、山本山10代当主山本嘉兵衛氏

日本人なら知らない人はいないお茶と海苔の老舗メーカー、山本山。今年創業333年を迎えた。

同社は元禄3年(1690年)、日本最古の煎茶商として創業、「茶業通鑑」には、「永谷園」創業者の祖先である永谷宗円が発明した煎茶を最初に販売したのが「山本嘉兵衛商店」、現在の山本山であると記されている。「玉露」を開発したことでも知られる、まさに和の食の源流を作ったともいえる同社だが、現在は「ヤマモトヤマ USA」「ヤマモトヤマ ブラジル」など海外現地法人を設立、ハーブティー事業も推進するなど、新しい風を受けて革新的な施策も展開している。

日本橋の山本山本社にて、襲名直後の10代当主 山本嘉兵衛氏に、博報堂DYメディアパートナーズ アドバイザーで渋谷区CFO(Chief Food Officer)の川井潤氏が、「寿司」を基軸とした海苔の市場変化、そして「カリフォルニア巻き」誕生の顛末などについて聞いた。

なお川井氏は、かつて一世を風靡したフジテレビの超人気グルメ番組「料理の鉄人」企画ブレーンも務めたほか、食べログフォロワー数日本一で知られる名物フーディーである。

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「カリフォルニア巻き」が海苔の世界市場を形成した

川井潤氏(以下、川井):今、アメリカで海苔がものすごく売れているそうですね。

山本嘉兵衛社長(以下、山本):実は、海苔の需要ナンバー1は「寿司用」ですが、アメリカでの海苔需要の高騰は、「寿司店が増えている」ことが主な原因です。

東京都にある寿司店は、2020年の調査で3327軒だそうですが、たとえばカリフォルニア州には、2022年度のJETRO調査では寿司店が5000軒ぐらいある。

ちなみに「日本食レストラン」に広げれば、全米で2万3064軒、12年前の1.6倍、17年前の2.5倍、22年前の3.9倍にも増えているそうです。

アメリカ人はもともと海苔を食べなかった。黒い食材を食べる習慣がなかったんです。アメリカ人が口に入れる黒いものは「トリュフ」と「コーヒー」ぐらいだった、とも言われていますよね。

しかし、そのアメリカ人の習慣を知った上で、黒いものを食べさせるために尽力をした寿司屋さんが何人かいるんです。彼らが作ったのが「カリフォルニア巻き」。

表が黒いから食べないのであれば表を白くすればよい。そうして作った「裏巻き」、カリフォルニア巻きは、アメリカで大人気になった。気がつけばあれ、中に黒いもの、海苔が入っている、でもこれはおいしい、って。

そして、「カリフォルニア巻き」誕生の理由には、作り手側の都合もあったようです。つまり、「裏巻き」は作るのが簡単。いわば誰でも作れるらしいんです。でも、(表が黒い)「細巻」は、寿司を握るよりも難しい。海苔の上でお米をある程度の分を伸ばしていく、という作業の難易度が高いからです。相当ベテランの寿司職人でないと、本当に美しい細巻は巻けないといいます。

山本:そんなわけで、日本人の寿司職人がいないから「細巻」は作れない、という寿司屋さんがニューヨークやロスには今でもあります。

ですから、アメリカ人の嗜好に合わせて「表が黒くならない」ように考えたことにプラスして、その、技術的に上級な「巻き物」を簡単に作れるように考えられたのが「裏巻き」、すなわち「カリフォルニア巻き」だった。これなら、後からお米を足せますからね、粘土のように。

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構成・文=石井節子 写真=曽川拓哉

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