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2023.11.30 12:45

野菜を天秤棒で売り歩く、京都の八百屋「お野菜どうどす?」の訴求力

石井節子

読むふるさとチョイス

(本稿は「読むふるさとチョイス」からの転載である。)


“振り売り”と聞いて想像するのは、江戸時代の行商人? 天秤棒を振り担いで練り歩く?

もちろん歴史的にはそうだが、この商いのスタイルを現代風に行うユニークな八百屋がある。京都の洛北(京都市北部)をベースに、京都の農家から旬の野菜を仕入れ、直接消費者に届ける「Gg’s(ジージーズ)」だ。振り売りは週3回、1日30カ所以上の場所を回る。立ち上げから8年、「売りに来てほしい」という依頼は多いが、現在新規は受け付けていない。人気の理由はどこにあるのか。事業を大きくしないのはなぜか。Gg’sの代表・角谷香織さんに訊ねると、コミュニティを醸成する装置としての八百屋の姿が見えてきた。

畑と町をつなぐ伝言板


振り売りはもともと天秤棒を振り担いで商品を売り歩く様から名付けられた商いの手法で、江戸時代にはその姿は全国各地で見られたという。そんななか古くより、振り売り=野菜のイメージが強いのが京都だ。京都市は南以外の三方を山に囲まれ、その山裾に農地が広がっており、農地と市街地の距離が近い。そのため、農家が朝採りの野菜を大八車(リヤカー)や車に積み、独自のルートを回りながら、「お野菜どうどす」などの売り声とともに直接野菜を売り捌く振り売りが根付いてきた。

けれども、そうした光景は今では珍しくなった。そこで八百屋として、独自の手法で振り売りを行っているのがGg’sだ。

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前日や当日の朝に農家から仕入れた野菜を軽バンに積み、振り売りと飲食店への配達を織り交ぜながら、毎日30カ所以上を回る。毎週日曜には大徳寺のそばに「晴れときどき雨、のちお野菜」という八百屋を開き、野菜を販売する。仕入れた野菜は、必ず1度はスタッフ全員で試食する。畑で収穫を手伝うこともあれば、シェフを畑に案内することも、シェフと一緒に新メニューを考えることもある。

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「私たちが町の人の目の代わりになって、農家さんの畑を見て。また農家さんの耳の代わりになって、町の人からの感想やリクエストなんかを聞いてくる。農家さんのことも町のお客さんのことも理解して、できるだけ同じ視点をもっていたいと思います」

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今の畑はこういう状態、とか、このお野菜はこうして食べると美味しい、という話が聞けるのはGg’sで買い物する醍醐味だ。反対に、こんな野菜に人気がある、などの町の情報が届くのを農家は楽しみにしている。Gg’sは伝言板としての役割も担っている。

「野菜の売り買いの間にわざわざ私たちが入っているのだから、何かプラスのことができないと意味がない。そこに価値を感じてもらうためにも、双方の声を届けつづけなければと思います」
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文=池尾優

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