経営・戦略

2023.11.02 13:00

持続可能な資本主義 欧州系コンサルティングファームだからできること

1967年にドイツ・ミュンヘンで生まれたローランド・ベルガーは現在、世界51都市にオフィスを構え、ヨーロッパ最大級の経営戦略コンサルティングファームに成長した。

変化が著しい現代のビジネス環境において、文化や背景の異なるさまざまな地域で価値を提供できる秘訣はどこにあるのか。グローバル・マネージング・ディレクターのマーカス・ベレットと、日本オフィス代表の大橋譲が語る。


パーフェクトストームの中での「適応力」


2023年度の売上は10億ユーロに到達する見通しだというローランド・ベルガー。しかも、この3、4年間は前年比15〜20%増と、順調に成長を遂げている。

いかにして、このような成長ができたのか。グローバル・マネージング・ディレクターのマーカス・ベレットはこう答える。

グローバル・マネージング・ディレクターのマーカス・ベレット

グローバル・マネージング・ディレクターのマーカス・ベレット

「クライアントへのコミットメントを重視している点は前提として、私たちの強みは、アメリカを中心とした大規模コンサルティングファームと比べて、グローバルでありながらも中規模の組織であることです。つまり、大規模な組織と比べると、小回りの利いた柔軟な対応ができるわけです。

現代のビジネス環境は非常に流動性が高く、激しい変化にいかに対応できるかが問われます。そうした変化への適応力の高さが、私たちの特長であると言えます」

さまざまな業界のクライアントと一緒に仕事をしているなかで、共通するのは、企業が大きなプレッシャーにさらされていることだと指摘する。その原因の一つが、ウクライナ侵攻。

「自動車業界を例にすると、ヨーロッパの場合、ロシアによるウクライナ侵攻以来、エネルギーの価格が急騰しています。企業によっては全体のコストの5〜10%をエネルギーコストが占めており、ある国では価格が5倍も上昇するなど、コスト削減が非常に重要な課題となっています。

また、一時期、インフレ率が10%以上になったこともあり、消費者の生活はひっ迫したままです。食費や光熱費で手一杯になって、自動車を買う余裕がない人が増え、需要が落ち込んでいます。

さらには、自動車業界にとって一番大きな変革である、電動化の流れにも目が離せません。EUでは、2035年までに、環境汚染を広げないことを目的とした全新車のゼロ・エミッション化が進められています。問題は、電気自動車の生産コストがこれまでの車と比べて非常に高いこと。とはいえ、消費者に今までより高いお金を出してもらうことは難しいでしょう。

複数の災害が同時に起こり、破滅的な状況になることを“パーフェクトストーム”と呼びますが、自動車業界だけでなく、さまざまな企業がこのようなプレッシャーの最中にいます。だからこそ、私たちのようなコンサルティングファームに助けを求める企業が増えてきているのかもしれません」

課題解決の糸口は「長期的視野」と「多様性」

厳しい環境にさらされている企業をナビゲートするために、ローランド・ベルガーは「長期的視野」と「多様性」を重要視しているという。この2つを標榜する背景はどこにあるのだろうか。



「企業は今、さまざまなステークホルダーからもプレッシャーを受けています。

先ほども例に出した自動車業界では、電動化の流れの中で、内燃機関のエンジンを作る工場が不要になった場合、そこで働く従業員の生活を左右することになります。また、生活コストが上がったことで賃上げを訴える従業員が増えました。ストライキも辞さない構えで4割もの賃上げを要求するといったことも起きています。

政治家からは、自動車企業に対して雇用維持のプレッシャーをかけられることも。さらには、将来の見通しが立たないことから、融資を渋る銀行も出ています。

あえて、アメリカ的と言ってしまいますが、企業を株主のものと捉え、株主が価値を感じるように動けば良いという世界観はもう通用しなくなったように思います。むしろ、さまざまなステークホルダーがいるなか、バランスを取って意思決定することが重要で、そうするためには長期的視野が必要なのです」

多様性においては、人種や性別、そのほかのバッググラウンドに目が行きがちだが、ローランド・ベルガーが重要視しているのは「考え方の多様性」。これこそが、企業が抱える課題を解決する糸口であると、大橋は答える。


日本オフィス代表の大橋譲

日本オフィス代表の大橋譲

「マーカスが述べたように、現在、企業にはさまざまなステークホルダーがいて、均衡を保ちながら意思決定しなければなりません。また、今まで国内の状況だけを考えればよかった多くの企業が、グローバル視点を持たなければならなくなりました。

このような状況において課題を解決するには、さまざまな考え方を持った人材が必要で、多様な考えをぶつけ合うことが大切です。

『考え方の多様性』を重要視するのは、ローランド・ベルガーがヨーロッパをルーツにしていることにつながっています。ヨーロッパは、複数の国で構成され、人種や宗教などバッググラウンドはさまざまです。そうしたなかで互いをリスペクトしながら助け合ってビジネスを進めてきた歴史があります」

さて、ローランド・ベルガーは、ヨーロッパやアメリカ、アジアなど世界51都市でオフィスを設け、ビジネスを展開している。文化や商慣習の異なる地域でも価値を提供できる理由はどこにあるのだろうか。マーカスにその見解を聞いてみると、次のように答えた。

「私たちは、『Local is for locals.(ローカルにはローカルを)』をコンセプトとして掲げています。良い例が日本オフィスです。外国籍のコンサルタントも在籍していますが、基本は日本の社員が主体となって運営しています。

また、本社から何かを押し付けたり、ルールを課したりすることはありません。日本に限らず、ローカルのカルチャーに沿って、そのローカルの人たちが動いていることが、さまざまな地域で価値を提供できる理由です。これもまた、多様性を重要視している私たちらしさと言えるでしょう」

日本企業は「縁の下の力持ち」

世界中でビジネスを展開するローランド・ベルガーにおいて、日本の経済市場はどう見られているのか。日本オフィスが期待されていることを大橋に聞いた。

「日本はコアマーケットとして位置づけられています。さまざまなメディアで、世界経済における日本の存在感が弱まっているという報道がされていますが、私たちがご一緒しているクライアントや業界を考えても、他に引けを取りません。

例えば、世界的に需要が高まっている半導体に関連するビジネスを見ても、素材や製造設備などは日本企業がまだまだ強い。なので、半導体ビジネスの中心にいると見られる海外企業も、日本企業の発展をサポートしないと成り立たないんです。

こうした状況が他の業界でも見られます。ローランド・ベルガーも例に漏れず、グローバルな経営課題を解決していくためには、日本企業の力が必要なので、コアマーケットに定めています」



一見、海外企業が中心となっている業界やビジネスでも、日本企業は縁の下の力持ち的な強みを発揮しているのだと、大橋は言う。一方で、「失われた30年」という言葉に象徴された経済の停滞感は、依然として感じられる。今、日本企業が抱える悩みとは、どういうものなのか。

「さまざまな業界や企業に共通している課題は、これまでの慣習を柔軟に変えられないことです。日本は高度成長期を迎えて大きく成長した時期もありましたが、その時期に行われていた古いやり方から脱せていないことも多くあります。ここ数年、DXが求められていますが、ビジネスの効率性を高める変革を起こさなければ生き残れない状況といえるでしょう」

数値目標よりも大事にしたいビジョン

ヨーロッパ系最大級の経営戦略コンサルティングファームに成長したローランド・ベルガーが見据える先は何なのか。マーカスは今後の展望をこう語る。

「2028年の数値目標としては20億ユーロの収益を上げることを目指していますが、それよりも大事なことがあります。それは私たちの元に素晴らしい人材が集まること、そして、そうした人材が最も働きやすいと感じる職場環境を整えることです。

企業ならびに経営者は、まさに“ミッション・インポッシブル”と言っても過言ではないほど、困難な問題に直面しています。流動性が高く、常に変革を求められるビジネス現場を支え、資本主義を持続可能にすることが、我々のようなコンサルティングファームの存在意義だと思います。

ですから、多くの企業と共に新たな道を模索し、切り開いていけるような優秀な人材が集まる会社になることが一番大切なビジョンだと考えています」

text by 杉山大祐(ノオト)/ photograph by 小野奈那子 / edited by 水上歩美(ノオト)

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