スポーツ

2023.10.17 10:30

元K1王者はなぜ経営者向け格闘技大会を開くのか 闘いに宿る「武士道と美」とは

加藤肇
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経営者の練習や戦いぶりを見ると、仕事の進め方も想像できて面白いですね。後者の方であれば、練習前に前回の反省点やこれから取り組むべき点がLINEで送られてきます。試合に敗れた後も、私とともに敗因を探り、あぶり出した問題点をトレーニングで一つひとつ消していきました。


島田さんも一つひとつの行動を考え、練習で上手くいかないことがあればその場で修正していくタイプの方です。経営者には基本的に闘争心が強く、今日の失敗や反省を次に持ち越さない方が多いですね。

──格闘技がエグゼクティブ層に与える好影響についても聞かせてください。

まず、身体能力が間違いなく上がります。経営者は闘争心が強いこともあってか、力み過ぎてしまい、筋肉だけで身体を動かそうとするケースがよくあります。しかし、骨格からの動きも意識するように丁寧に教えていくことで、自分の身体を思い通りに動かせるようになります。

また、商談などで相手が強気に出てきた場合でも、格闘技を学んでいると精神的に堂々としていられるということを、よく聞きます。雑談で「何かトレーニングをしているんですか」と聞かれ、「キックボクシングをしています」と答えたら、その瞬間から相手の対応がガラッと変わったというエピソードを持つ経営者もいます。自分の身体に自信を持つことで、メンタルにも好影響を与えていると言えるでしょう。

そのうえ、試合に出ることで健康になります。大会に臨むにあたって対戦相手と体重を合わせるため、多くの場合は5キロほどの減量をこなす必要が出てきます。ただ、その減量は理想体重に近づくことでもあり、会食で飲む量を気にしたりと、普段の生活から節制を心がけるようになります。さらに「EXECUTIVE FIGHT BUSHIDO」では、出場選手に血液検査と脳検査を義務付けていることから、自分の健康状態を知るきっかけにもなっているようです。

その戦いは、人生の1ページに刻まれる

──エグゼクティブが大会に出場するメリットはありますか。

一番は、充実感ですね。やはりリングに上がり、戦い終えたときに感じる「やり切った」という感情は、何ものにも代えがたいものです。富士山やエベレストに登頂すると、見える景色が違うと言いますが、リングの上から見る景色もほかでは味わえません。360度をお客さんに囲まれ、身も心もすべて解き放ち、裸一貫で戦うと、試合後に得る充実感や安堵感は表現しがたいものがあります。

そして、リングで戦う経営者たちに刺激されるのか、試合を見た社員が自分から進んで仕事をするようになったという話もよく聞きます。

それに私のトレーニングは1回45分という短時間ですが、スピードと持久力、両方をアップさせるために筋力や心肺機能も鍛えていくため、悩みや考えごとは脇に置いて必死に取り組む必要があります。仕事で何かあったのか、ジムに難しい顔で入ってくる経営者も多いですが、トレーニング中は無心でミットを打っています。その瞬間は悩みごとを忘れられるからか、頭をリセットするためにトレーニングに通っている方も少なくないですね。

──とはいえ、格闘技は始めるまでのハードルが高く見えます。

もちろん、試合に出場する選手には、恐怖もあるはずです。ただ、マッチメイクはすべて私が担当し、選手間でなるべく実力差が出ないように試合を組んでいます。

やはりレベルが違いすぎると、試合をやっていても面白くありません。格闘技の醍醐味は、戦いを通して選手の考え方や生き方、精神が見えるところ。試合で苦しいときに、互いの踏ん張る気持ちや勝ちたいという思いがぶつかると、リングは美しく輝いて見えます。「強さに美は宿る」と言われますが、まさにそれを体現するかのようです。
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文=小谷紘友 写真=小田駿一 インタビュー=Forbes JAPAN Web編集長 谷本有香 編集=大柏真佑実

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