欧州

2023.10.01 09:00

ウクライナの新兵器「潜水ドローン」 水中からロシア艦艇の弱点狙う

遠藤宗生
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ロシア黒海艦隊にとって、ウクライナの潜水艦や潜水艇は大きな問題ではなかった。2014年からつい最近までは、まったく問題でなかったと言ってもいいだろう。同年、ウクライナ海軍は、保有していた唯一の潜水艦で1970年代に建造された「ザポリージャ」をついに退役させたからだ。

最大の敵の海中からの脅威がなくなった黒海艦隊は、主に対空・対地戦を想定した組織に再編された。本格的な対潜水艦戦に備えた体制ではなくなったということだが、実際、それでさほど問題はなかった。

だが8月下旬、ウクライナの兵器開発グループ「アモ・ウクライナ」が無人潜水艇(UUV)のプロトタイプ「マリーチカ」を公開したことで、状況は変わった。マリーチカは全長約5.5mの魚雷のような無人艇(ドローン)で、おそらく内部の慣性システムによって航行する。数百kgの爆薬を積んで1000km近く航続し、ロシアの軍艦の最も脆弱な部分を攻撃できる。

UUVについて、米ランド研究所(カリフォルニア州)のシニアエンジニア、スコット・サビッツは「喫水線下で行動するので、ステルス性で強みをもつのは言うまでもない。それだけでなく、喫水線下の攻撃はとくに大きなダメージを与えられる可能性もある」とブログに書いている。

しかも、黒海艦隊は小型のUUVを探知・要撃できる態勢になっていない。UUVによる攻撃、たとえばクリミア半島の黒海艦隊停泊地に対する攻撃の最初の兆候は、一連の水中爆発になるかもしれない。

黒海艦隊には、ソナーを装備し、カモフKa-27対潜ヘリコプターを搭載するアドミラル・グリゴロビッチ級フリゲート艦がまだ3隻あるし、最新の22160型コルベット艦を擁する対潜水艦分艦隊もある。同分艦隊にはこのタイプのコルベット艦が最大3隻配備されているが、少なくとも1隻は9月、ウクライナの水上無人艇による攻撃で損傷した可能性がある。

もっとも、ロシアがウクライナでの戦争を拡大してから1年8カ月の間、これらのフリゲート艦はウクライナの都市に向けて巡航ミサイル「カリブル」を発射するために出撃するときも、黒海西部方面でごく短い距離しか航行できていない。

なぜか。ウクライナはこれまでに、水上無人艇や地上発射の弾道ミサイル、空中発射の巡航ミサイルなどによって、ロシアの巡洋艦1隻、揚陸艦3隻、潜水艦1隻、補給艦1隻、哨戒艇や上陸用舟艇数隻を次々に破壊してきた。こうした脅威にさらされているため、ロシアの4000トン級の大型艦が長時間基地から出ているのは極めて危険なのだ。

たしかに、黒海艦隊のより小型の艦艇は母港から比較的離れた場所に出撃している。だが、これは別に小型艦なら安全だからというわけではなく、たんに艦隊司令部が大型艦よりはリスクをとらせているだけにすぎない。

対潜水艦分艦隊の22160型コルベット艦はそもそもソナーを備えていないらしい。ロシアの国営メディアによると、この分艦隊が4月に潜水艦の捜索・攻撃演習を実施したときには、実際の対潜任務はソナーを装備した古いグリシャIII型コルベット艦2隻が担い、22160型哨戒艦「ワシーリー・ブイコフ」は敵の潜水艦に対する「警戒網(スクリーン)」を張る役回りだった。

要するに、黒海艦隊は今後起こり得る事態への備えができていないということだ。ウクライナ海軍はすでに水上無人艇やミサイルで同艦隊を攻撃している。近いうちに、より攻撃力が高く、探知の難しい無人潜水艇がそれに加わるかもしれない。

forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

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