アート

2023.10.04

AIは「創造性」を持ち得るか? デジタルアートの本質的な疑問

「Artifact Labs」の最高商務責任者(CCO)に就任したセフ・チョウ(Zaf Chow)の考察をご紹介する

OpenAIのChatGPTをはじめとする生成型の人工知能(AI)が注目を集める中、AIが生み出したイノベーションは、芸術領域にも波及し「ジェネレーティブアート」や「AIアート」と呼ばれる新たなジャンルを切り開いている。

ここでは、香港を拠点とする Web3企業アニモカブランズを経て、2023年4月に美術館がアートや文化遺産をブロックチェーン上に記録し、IP(知的財産)を管理することを支援する企業「Artifact Labs(アーティファクト・ラボス)」の最高商務責任者(CCO)に就任したセフ・チョウ(Zaf Chow)がブログで発表した考察を、本人の許諾を得て一部編集の上、転載する。


アートは無限の創造性の産物であり、アーティストは自己の思考や感情、想像力をそこに注ぎ込んでいる。しかし、人工知能(AI)がアートの創造に関わりはじめた中で「AIが生成したアートは本当にアートと呼べるのか」という議論が巻き起こっている。

この論争の中心には「創造性」をどう定義するかという問いかけがある。これまで創造性は独自の表現を生み出すことや、異なるアイデアを結びつける能力とされてきたが、アルゴリズムとデータに駆動されるコンピュータがそれを持てるのだろうか。一部の批評家は、AIアートが創造性を模倣しているに過ぎないと述べている。

一方で、AIアートの支持者は、その探求とイノベーションを評価し、AIが人間の制約を超えて新たな表現を生み出すと主張している。アーティストは、アルゴリズムの力を借りて表現の枠を広げようとしている。

アルゴリズムを駆使したジェネレーティブアート作品で世界的に有名なアーティストのタイラー・ホッブス(Tyler Hobbs)は、AIを用いて創造的な枠組みを広げ、伝統的なアートの世界を再構築しようとしている。彼のようなアーティストは、AIを人間の創造性の代替手段とみなすのではなく、自身の創作行為の延長と捉えている。

「私は、AIプログラムに自身の想像力の限界を突破する自由と力を与えたい。ランダム性がそのための重要な要素となる」とホッブスは述べている。
Fidenza by Tyler Hobbs アルゴリズムを駆使した作品で世界的に有名なアート作家として知られるのがテキサス州出身のタイラー・ホッブス。大学でコンピュータサイエンスを学んだ彼は、2014年頃にアートとプログラミングを融合させた自身のジェネレーティブアートを確立。世界中のアートファンを魅了している。ホッブスは、日本では森ビルのプロジェクトから依頼を受けて、新作のミューラルアート(壁画)を制作。2023年5月から東京の虎ノ門エリアの新虎通りに面したビルの壁面を飾っている。

Fidenza by Tyler Hobbs アルゴリズムを駆使した作品で世界的に有名なアート作家として知られるのがテキサス州出身のタイラー・ホッブス。大学でコンピュータサイエンスを学んだ彼は、2014年頃にアートとプログラミングを融合させた自身のジェネレーティブアートを確立。世界中のアートファンを魅了している。ホッブスは、日本では森ビルのプロジェクトから依頼を受けて、新作のミューラルアート(壁画)を制作。2023年5月から東京の虎ノ門エリアの新虎通りに面したビルの壁面を飾っている。

従来のアートのパラダイムへの挑戦

AIが生成したアートの出現により、アートの創造と作家性に関する長年の捉え方に疑問が投げかけられている。従来のアートは、アーティスト個人の経験や感情、世界の捉え方に主眼を置くが、AIは、アルゴリズムやデータのインプットからアートを生み出している。ここで価値を持つのは、アーティストの意図なのか、それとも、その作品が喚起する共感なのだろうか。

批評家はまた、AIアートが創造性を商業化する可能性があり、人間が生み出すアートや職人技の価値を減少させかねないと主張している。しかし、ここで重要なのは、AIが人間のガイダンスを必要とするツールであることだ。本当の課題は、歴史を通じ形成されてきたアートの本質を保ちながらAIを組み込む方法を見つけることだ。
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文=セフ・チョウ 編集=上田裕資

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