2023.09.23 11:00

イスラエル観光、テルアビブで「東京で見過ごしがちなもの」に出会う

鈴木 奈央
その徒歩圏内にあるネヴェツェデクは、テルアビブより少し古い集落で、近年、フランスからの移民による再開発で南仏さながらの街並みに変貌を遂げた。東京も外国人からするとこのように違いが見えているだろうか、と山手線の図が頭をよぎる。

街の標識などは公用語のヘブライ語が優先されているが、買い物や食事ではおよそ英語が通じる。物価は日本と同程度。治安は、ガイドのガル・ゴールドスタインさん曰く、「女性が夜にひとりでも出歩ける」レベル。移住者も観光客も多い中、日本人は珍しくなく、余計な視線も感じない。

文化の違いを感じるのは、土曜日(正確には、金曜の日没から土曜の日没)がシャバットと呼ばれるユダヤ教の安息日で、店が休業するのみならず、公共交通機関すらも止まること。「落とし物をすると返ってくるのが日本だとすると、イスラエルでは、落とし物は不審物と見做され、警察に処分される」(ガルさん)と、セキュリティに敏感なところもイスラエルらしい。

移民の国、人々をつなぐ食

日本といえば日本人だが、イスラエルはユダヤ人の国家であり、イスラエル人よりユダヤ人という表現が紐づく。ユダヤ人とはユダヤ教徒のことで、国民の約75%を占めるが、人種はヨーロッパ系、アラブ系、アフリカ系などさまざま。そこに、イスラム教徒 18%、キリスト教徒 2%、ドルーズ 1.6%が共存する。

テルアビブは、ヤッファ地区に聖ペテロ教会やオスマン帝国時代のモスクがあり、コーランも流れる。ユダヤ人も厳格に戒律を守る正統派から、ほどんと守らない世俗派まで幅広い。一方、国内には、敬虔なユダヤ教徒のみが住む「ツファット」、アラブ人が根付く「アッコー」などがあり、地域や街区によってコミュニティの性質は異なるという。

そんなルーツや宗教の違いは、独特の食文化を生み出している。テルアビブ台所「カラメルマーケット」には、新鮮な食材のほか、地元のアラブ料理や地中海料理、チュニジア、モロッコなど移民のルーツを反映したフード屋台が並び、それらを楽しむ人々の活気であふれている。

この多国籍さこそが特徴の“イスラエル料理”において、どのレストランでもメニューにあるのが「フムス」だ。ひよこ豆をすりつぶしたペーストで、オリーブオイルやスパイス、ゴマのソース「タヒニ」などと一緒に食べる。ユダヤ教のコーシャ、イスラム教のハラル、いずれの食事規則にも触れない国民食で「毎日のように食べるけれど、作るのが大変で、皆、馴染みの店で買う」のだとガルさんは言う。

カラメルマーケットを知り尽くすプロが「テルアビブでナンバーワン」とすすめるフムスは、イエメンからの移民家族が手がける「Shlomo and Doron」。野菜やミンチ、スパイスがトッピングされ、メインディッシュかのようなフムスは見た目も美しく、食べ応え満点。4代目の店主が「ピタパンでなく、生の玉ねぎでスクープして」と粋な食べ方を教えてくれた。
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文・写真=鈴木奈央

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