教育

2023.10.02 08:00

批判は部下の学びを阻害? 「叱って育てる」にまつわる恐ろしき5つの誤解

石井節子

Getty Images

岡本純子。「伝説の家庭教師」と呼ばれるエグゼクティブ・スピーチコーチにして、コミュニケーション戦略研究家である。これまでに1000人を超える社長や企業幹部に、秘伝のコミュニケーションノウハウを伝授。その劇的な話し方の改善ぶりと実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれ、引く手数多の大好評を博すカリスマだ。

大企業トップなどエグゼクティブへのマンツーマンのみならず、昨年5月からは一般向けに「世界最高の話し方の学校」も開校。菅・前首相を特別講師に招くなどで話題を呼んだ。今月はその第5期が始まり、のべ100人の生徒たちが参加する人気校に育っている。最新書籍『世界最高の伝え方』もたちまち重版の好調ぶりだ。

ここでは同書から、「伝説の家庭教師」が開陳する秘技、「7つの言い換え」の一部を以下、転載で紹介する。


「叱る」は本当に効果的?


「間違った考え方を改めてもらいたい」

「行動や態度を変えてもらいたい」

他人にそう感じることは、誰でも一つや二つあることでしょう。

そういう人に対しては、やはり、「『叱る』という行動は効果的」と思われがちです。「叱る」人の頭の中には、5つの誤解が隠されています。

1. 自分が「叱る」、相手は「叱られるべき」上下の関係性がある

2. 相手は間違いや弱みを「わかっていない」ので、指摘してあげるべきだ

3. 私が正しく、相手は間違っており、私のやり方は相手にも通用する

4. 人は叱られないと、甘やかされ、成長できない

5. 叱ることには効果がある

このどれもが、じつは間違っています。

上下関係に基づく、「上→下」の一方的なコミュニケーションは、人の考え方や行動を変えるうえでは、効果が薄い方法です。

年齢や身分が上の者が常に正解を持ち、下の者は従うべきという考え方も、いまや時代遅れ。あなたの相手への評価が歪んでいる可能性も否定できません。

これだけ時代の変化が速い時代に、紙とファックスでやってきた旧世代のやり方がいつも正しいわけはないですよね。

価値観も大きく変わり、多様化する中で、昨日までの常識は、あっという間に、今日の非常識に変わります。

正しく指導しているつもりでも、古くて時代遅れのやり方を押しつけているだけ、という可能性は高いのです。

人によって、最適解はさまざまで、自分のやり方が相手にも通用するとは限りません。

そして、「人は叱られないと成長できない」「叱ることには効果がある」という考え方もじつは間違っています。詳しく解説していきましょう。

「叱る」はじつは無効果


叱る、すなわち、相手の非をあげつらい、批判する行為は「基本的に効果がない」ということは、多くのグローバルな科学的研究から明らかになっています。

たとえば、次のような研究結果も出ています。

脳は批判的な意見やフィードバックを脅威とみなす。批判によって生じる強い否定的感情は、神経回路へのアクセスを阻害し、認知、感情、知覚の障害を呼び起こす。したがって、人の欠点に焦点を当てることは、学習を促進するのではなく、むしろ阻害する。〈米ケース・ウェスタン・リザーブ大学の研究〉


教育の現場でも、同様の研究があります。

学生は本能的に、気分が悪くなるような意見やフィードバックを排除し、気分がよくなるようなフィードバックに同調する。実際、ほめられる頻度が高く、批判される頻度が低いほど、つまりほめ言葉の比率が高いほど、生徒は積極的に行動する。〈Educational Psychology誌〉


厳しい言葉が飛び交うスポーツの舞台でも、批判や否定、叱責は「百害あって、一利なし」ということが明らかになっています。

スポーツの現場での言葉による攻撃は、モチベーションや感情とは負の相関がある。否定的な行動変容のテクニック(叱責、人格攻撃、能力攻撃、からかい、嘲笑、脅迫、冒涜など)は、何ら効果がない。〈Journal Sport Behavior誌〉


といったように、否定的なフィードバック・批判は相手を嫌な気分にするだけで、効果がないということが多くの研究から実証されているのです。
次ページ > 状況がどんなに危機的でも叱ってはいけない

文=岡本純子

ForbesBrandVoice

人気記事