欧州

2023.09.03 09:30

ロシア軍の予備師団が南部戦線に 東部でのウクライナ軍失速も影響か

遠藤宗生
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ロシア空挺軍第76親衛空挺師団の空挺兵。2020年、ロシア・プスコフで(Getty Images)

ウクライナ軍の部隊は8月30日ごろ、南部ザポリージャ州の集落ベルボベ周辺で、ロシア軍が築いた3重の防衛線、通称「スロビキン・ライン」のうち、第1防衛線にあたる対戦車塹壕(ざんごう)を越えたとみられる。この部隊は小規模な偵察部隊だった可能性もあり、ロシア軍部隊から対人擲弾(てきだん)を撃ち込まれて撤収した可能性もある。

ウクライナ軍がザポリージャ州や隣のドネツク州で、満を持して反転攻勢を開始してから3カ月ほどたつ。偵察活動だったにせよ何にせよ、ロシア軍の支配下にあるベルボベの北西で目撃された今回の行動は、ウクライナ軍による南部での反攻が強まっていることをさらに示す動きだ。

ウクライナ軍は過去2週間で、ドネツク州南部のモクリ・ヤリー川渓谷にあるウロジャイネと、ザポリージャ州のベルボベのすぐ西にあるロボティネという重要な2つの集落を立て続けに解放した。

ロシア軍指導部は動揺したのだろう。1週間ほど前、残された最後の主要予備である空挺軍第76親衛空挺師団をウクライナ東部から南部へ移動させた。

第76親衛空挺師団は、各数千人の空挺兵を擁する前線任務担当の3個連隊を隷下に置くほか、T-90戦車T-72戦車なども装備する強力な師団だ。その部隊はこのほどロボティネから南へ20kmほどにある都市トクマクに到着し、さっそくロボティネのウクライナ軍部隊に対する砲撃を始めている。

しかし、第76親衛空挺師団は予備とはいえ、どうして東部から移動可能になったのだろうか。また、ロシア軍指導部はなぜ、この師団を配置換えしても支障はないと判断したのか?

ロシア軍に詳しい作家のトム・クーパーはこう推測している。ロシア軍指導部がこのところ、ドネツク州のバフムート一帯の陣地を守りきれることに自信を深めているからではないかと。

ウクライナ軍の旅団が南部で反攻を開始したのと同時に、東部でもウクライナ軍の小規模な部隊が攻撃を始めたのを思い出してほしい。陸軍の第3強襲旅団と第5強襲旅団を主力とするその部隊は、ロシア軍の重要な防御陣地が設けられていたドンバス運河を越え、バフムートの北と南の両面で数km前進した。

東部での攻勢は南部での攻勢にも重要な役割を果たしてきた。クーパーが指摘しているとおり、「ウクライナ軍による過去数カ月の攻勢によって、ロシア空挺軍の2個師団がバフムートエリアに張り付けられてきた」からだ。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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