気候・環境

2023.08.17 14:30

世界最高峰「ヒマラヤ山脈の形成史」を塗り替える地質学の最新研究

安井克至
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国際宇宙ステーション(ISS)乗組員が撮影した、ヒマラヤ山脈、チベット高原、ヒンドスタン平原(EarthObservatory/Caption by Justin Wilkinson, Texas State University)

米スタンフォード大学ドーア・サステナビリティ(持続可能性)学部のチームは、世界で最も有名な山脈の1つ、ヒマラヤ山脈がどのように形成されたかについて、専門家らが長年支持する通説とは異なる形成過程をたどったことを示す研究論文を発表した。研究チームは、鉱物の同位体組成を用いて堆積岩の過去の高度を測定することで、この結論を導き出している。

標高8000mを超える14座の峰が連なるヒマラヤ山脈は、世界最高峰の山々がチベット高原の上にそびえている。チベット高原は世界で最も海抜が高く、最も広大な高原で、平均高度が4500mを超える。

「議論が分かれるのは主に、ヒマラヤ山脈が出現する『以前に』何が存在していたかをめぐってだ」と論文の主執筆者で、同学部教授(地球惑星科学・地球システム科学)のページ・チェンバレンは説明する。「ヒマラヤ山脈を形成した衝突より前に、2つの地殻構造プレートの端部がすでにかなりの高さ、平均で約3.5kmに及んでいたことが、今回の研究で初めて明らかになった」

論文の筆頭執筆者で、チェンバレンの研究室の博士課程修了研究者だったダニエル・イバラは「これは、現在の高さの60%を超えている」と続けた。イバラは現在、米ブラウン大学の助教を務めている。

従来のモデルでは、約5000万年前にインド亜大陸が北上してユーラシア大陸と衝突、2つの陸塊の間にあった海をふさぎ、地殻の断片を押し上げたとされる。

イバラは「ヒマラヤ級の標高まで上昇させるのに必要な隆起を引き起こすには、大陸対大陸ほどのスケールの大規模な構造衝突が必要だと、専門家の間で長年考えられている」と説明。「今回の研究は、この説の誤りを証明し、この領域を新たな興味深い方向に向かわせるものだ」と述べている。

研究チームは、鉱物の中に保存されている酸素の同位体を調べ、鉱物が形成された標高を特定することで、大陸衝突前のヒマラヤ山脈の地形を再構成した。
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翻訳=河原稔

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