食&酒

2023.08.13 16:30

シャンパーニュに学ぶ「価値を高める」ブランディング

鈴木 奈央
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2. 環境保護への取り組み 

ここからは別の視点からブランディングに繋がる注目すべきポイントを紹介していきたい。シャンパーニュはサスティナビリティへの取り組みを積極的に行っているワイン産地のひとつだが、実はそのことがシャンパーニュの売り上げ増大に繋がっているという見方がある。

シャンパーニュは2003年に世界で初めてカーボンフットプリントを算出した産地として知られ、現在もボトルの軽量化やパッケージングの改良・廃止などを積極的に行っている。

ワイン界をリードするサステナブルな取り組みで知られるメゾン「テルモン」の例をあげると、「ギフトボックスを全て取りやめることで8%のCO2削減に成功した」と同社のルドヴィック・ドゥ・プレシCEOは語っている。そして注目すべきは、「ギフトとして取り扱われることの多いシャンパーニュのギフトボックスを廃止することは、売り上げ減少のリスクを伴う決断だったが、結果的に売り上げはますます伸びている」ということである。
テルモンCEOのルドヴィック・ドゥ・プレシ氏(左)、サスティナブル農法の拡大とともに伝統的な馬耕作も増加している(右、@Comité Champagne2015年にユネスコ世界遺産に登録されたシャンパーニュの丘陵。@Comité Champagne)

テルモンCEOのルドヴィック・ドゥ・プレシ氏(左)、サスティナブル農法の拡大とともに伝統的な馬耕作も増加している(右、@Comité Champagne2015年にユネスコ世界遺産に登録されたシャンパーニュの丘陵。@Comité Champagne)


環境にプラスになるものを選択すること、サステナビリティを追求することがひとつのステイタスになっている今、シャンパーニュ業界は、持続可能な開発に対する明確な取り組みの先駆者として、高い意識を持つ人々の購買意欲を刺激していると言える。

3. 変化への適応力

シャンパーニュ業界は、環境の変化、市場の変化、価値観の変化に対する洞察力と、そこに順応する力に長けている。フランスにおけるワイン産地の北限という不利な条件をプラスに変え、酸とミネラルを特徴とした唯一無二のスパークリングワインを誕生させた。さらに毎年の気候の変化に耐えうる商品を生み出すために「アッサンブラージュ(ブレンド)」の技術を確立した。

最近業界で注目されているのが、気候変動への取り組みである。今年、シャンパーニュ委員会が気候変動への対応を主眼とする研究開発に1000万ユーロを投入するという計画を明らかにした。同時にブドウ品種や醸造方法の見直しなども行われていく予定で、さらなるテロワールの研究も進められていく。

生産者においては市場の動向を常に注視しながら、収穫時期や醸造方法をコントロールし、過去にとらわれすぎない先見性をもって商品を提案してきた。打栓前の糖分添加を全く行わないドサージュ・ゼロのスタイルや、氷を入れてカクテルのように楽しむスタイルなどを提案してきたのもその好例である。

シャンパーニュの需要はますます高まり、価格高騰や商品不足が取り沙汰されるまでになっている。その人気を支えるブランディング戦略には、シャンパーニュの泡の数ほどヒントが詰まっているのが見えてくる。冷えたグラスを傾ける時に感じる、あの何ともいえない高揚感がどこから生まれるのかを思い巡らせば、また新たなインスピレーションが得られるかもしれない。
一杯のグラスシャンパーニュの中に壮大なストーリーが詰まっている。@Comité Champagne

一杯のグラスシャンパーニュの中に壮大なストーリーが詰まっている。@Comité Champagne

文=瀬川あずさ

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