教育

2023.08.22 10:00

「ありのままの君を待ってくれる」不登校特例中で京大准教授が生徒たちに話したこと

石井節子

京都大学総合博物館准教授 塩瀬隆之氏

2021年4月7日、岐阜市に東海地方の自治体主導として初の公立不登校特例校、草潤中学校が開校された。定員40名のところ実に233名もが説明会に参加した学校の開校除幕式で、京都大学総合博物館准教授、塩瀬隆之氏のスピーチが大きな話題となった

塩瀬氏は「機械学習による熟練技能継承支援システムの研究」が専門で、ATR知能ロボティクス研究所研究員も務めた工学博士である一方、NHK Eテレ「カガクノミカタ」番組制作委員、日本科学未来館「“おや?”っこひろば」総合監修者、文部科学省中央教育審議会委員(数理探究)を務めるなど、教育の分野にも貢献は多い。開校時にアドバイザーを務めた後も関わりを続ける塩瀬氏が、開校後2年余りの6月、草潤中学校を訪れ、同校の生徒に向けた講演内容をお届けする。

続編:いつまで待てばよいのか-不登校特例校で見守る大人に京大准教授が話したこと


「違和感」こそチャンス

みなさんが通うこの草潤中学校が「バーバパパの学校」と呼ばれているのを聞いたことはありますか?前岐阜市教育長の早川三根夫さんから「この学校をどんな学校にしたいか?」と聞かれた時に私が、「『バーバパパのがっこう』のような学校にしてはどうか」と紹介したのがきっかけです。

『バーバパパのがっこう』はフランスで出版された絵本です。子どもたちが教室のなかで落ち着いて授業が受けられないのを見かねた市長が警察官を動員までして学校にしばりつけようとするところから物語はスタートします。

見るに見かねたバーバファミリーが、子どもたちを森に連れていって、子どもだちの好奇心をのばす学校を提案します。個性豊かなバーバファミリーは、お絵描きが好きな生徒、体を動かすのが好きな生徒、メカいじりが好きな生徒などなど、それぞれの好奇心を満たすようなサポートが得意で、その生徒たちの関心が高まったところに最初の学校にいた数学の先生が戻ってきて教えるとみるみる吸収していく、という新しい学校の形を示唆する絵本だったのです。

これがこの草潤中学校が手本とした学校でもあります。

一つだけ紹介すると、図書室やこの部屋にあるようないろんな種類の椅子は、どんな姿勢で読んでもいいので、たくさん本を読んでくださいというメッセージが込められています。でも、このいろんな椅子が、ちゃんと座れる椅子かどうか、その区別は実は、たとえばロボットには難しいのです。

皆さんは「いつもの教室の椅子に座ってはいけないけれど、この部屋のなかでどこでもいいのですぐ座ってください」、と言われたら、きっとすぐに座れる場所を見つけられると思います。小さな棚、机の角、ハンモックにバランスボール、フロアマットの上でもいい。

皆さんは、誰かからこの「座れる」場所がどんなところか改めて説明されたことがなくても、知っていますよね。実はこの当たり前のようなことが、ロボットにはめちゃくちゃ苦手なのです。

なぜなら今までみなさんは経験上、色々なところに何千回・何万回と座ってきた。だからここは座れそうだなとだんだんとその傾向に気づくことができる。でも、ロボットには「座れそう」という感覚はないので、椅子というものが「座面がある」とか「背もたれがある」とか、一つ一つ教えてあげないと、それが椅子だということもわからないし、そこに腰かけていいということも自分ではわからないんですね。

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監修=塩瀬隆之 構成=石井節子

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