欧州

2023.07.31 10:30

ロシアの新型高性能ミサイル、ウクライナ反攻の脅威に

遠藤宗生
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ロシアの攻撃ヘリコプターKa52(VicColon / Shutterstock.com)

ウクライナ軍がザポリージャ州で地雷原や対戦車塹壕、コンクリート製の障害物「竜の歯」を向こうに回して攻勢を強める中、ロシア軍は長距離攻撃が可能な新型高性能ミサイルを搭載した攻撃ヘリコプターで反撃している。

英国防省が7月27日に発表した最新の情報分析によると、ザポリージャ州の戦線で「最も効力を発揮しているロシアの兵器システムの一つ」が、攻撃ヘリコプターKa52、通称ホーカムだ。しかも、シリアでの戦闘経験を通じて開発された派生型の新機体、Ka52Mが配備されているという。Ka52Mは、最新の電子工学照準タレット、先進的な通信システム、殺傷力の高いミサイルなどの新型兵器を搭載できる兵器管制システムを備えているとされる。

英国防省の分析は「Ka52部隊のもう一つの重要な改良点は、新型対戦車ミサイルが統合されたことだ」と続く。「射程およそ15kmのLMURだ。Ka52の搭乗員はこの好機を逃さず、ウクライナ防空網の射程外からこの兵器で攻撃している」

これはヘリコプターの能力が本質的に拡大していることを意味する。Ka52のようなロシア製ヘリコプターは対戦車用に設計されており、レーザー誘導方式の対戦車誘導ミサイル(ATGM)であるVikhr(ヴィーフリ)とATAKA(アタカ)を搭載できる。射程はそれぞれ約10kmと約6kmだが、いずれも標的に直接照準を合わせる必要があり、射線が限られる。このため、米国から供与されたスティンガーや英国製のスターストリークといった携帯式地対空ミサイルを備えるウクライナ軍の防空網に、危険を冒してでも機体を接近させがちになる。

したがって、ロシア・ウクライナ両軍の攻撃ヘリの戦法の多くは、地上近くを飛行して敵陣営に接近し、急上昇しながら無誘導ロケット弾を連射したのち方向転換をするロケット・ロフティング攻撃に限られてきた。攻撃の精度は非常に低いが、この方法でロケット弾を撃ち込めば、機体が敵の砲火にさらされることはない。

LMURは別格だ。技術的にはIzdeliye Product 305(イズデリエ305)として知られており、LMURという名称は、Lyogkaya Mnogotselevaya Upravlayemaya Raketa(軽量多目的誘導ミサイル)の頭文字を取ったものだ。2007年に初めて公開され、2015年から試験が行われ、2016年以降に生産が開始された。重量は200ポンド(約90キロ)以上でVikhrの2倍、ATAKAの6倍もあり、「軽量」と呼ぶにはいささか語弊がある。

LMURはレーザー誘導方式ではなく、赤外線画像と衛星航法を組み合わせて使用する。直接射撃モードでは、オペレーターが赤外線探知装置で標的を捕捉して発射する。米国製の携帯式対戦車ミサイル、ジャベリンと同様のシステムだ。一方、標的との距離が開いている場合、オペレーターは敵の視界に入らない場所から指定した座標に向かってミサイルを発射し、ミサイルの赤外線カメラを介して標的を発見・ロックオンできる。
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翻訳・編集=荻原藤緒

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