働き方

2023.07.14 20:00

生産性の罠から放たれ 「主語を自分」に変えたら起きたこと

石井節子

Getty Images

実に、今の時代の気分を映したビジネス書が刊行された。『じぶん時間を生きる TRANSITION』(佐宗邦威著、あさま社刊)だ。

著者は、「時間は効率的に使うべきだ」と信じてきた戦略デザインコンサルティング。だが「スキマ時間にタスクを次々に処理していく」仕事モデルに限界があるのではないかと思い始めたことが、本書執筆のきっかけになった。

時間を効率的に使おうとすればするほど仕事は増えていく、生産性を上げて時間を貯めようと注力するほど時間がなくなっていく矛盾に対峙し、「時間泥棒はどこにいるのか」を突き詰めた結果、生活拠点を移す決断をした著者。そこで起きたことは、自身の「時間感覚」の変化と人生そのもののトランジションだった──。

本書の「まえがき」から以下、一部抜粋して紹介する。


コロナ禍が始まった当時、僕の働き方は、限界を迎えていたといっていい。

自ら立ち上げた会社、戦略デザインファーム BIOTOPEとともに創業後の4年間を全速力で走っていた。『世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』という本を出したことで、様々な企業からビジョン作りやイノベーション支援についての依頼が届いた。

「このチャンスを逃してはならない」

クライアントの期待に応えようと、時間効率を極限まで高めた。移動しながら1日4、5件のミーティングをこなし、週に3回もの半日・1日ワークショップをファシリテーションしていた。同時に、日々考えていることをSNSで発信し、増え続けるコミュニケーションに応え、新しい案件にも対応した。夜や週末の時間は、原稿の執筆だ。プライベートでは、会社を立ち上げると同時に第一子を授かった僕は、キャリアアップと子育ての両立を目指した。その結果、極端な時間不足に悩むようになった。きっとこんな体験をしたことがあるのは僕だけではないのではないか。

「時間が足りない......」

そんな悩みを解決するため手にとった「時間術の本」には、こう書いてある。

「メールはすぐ返せ」

「インボックスは常にゼロにせよ」

「生産性の高い朝に作業をして、午後にミーティングを入れよ」

「タスクを効率的にこなすために、すべての予定をスケジュールに入れよ」

これらを実践しようとしたし、実際ある程度の成果はあった。しかし考えてみれば、これらの時間術の本は、いかに短い時間で、より良いアウトプットを出すかということを教えている。では、そのノウハウを実践して、スピードを上げて返信すると、何が起こるか。返信を早くするとその返事が再び返ってきて、メールのやりとりが加速する。コミュニケーションがSlackなどのチャットに移行してから、その傾向は顕著になった。仕事を効率化させようとすればするほど、どんどん追い立てられる。余った時間ができたとしても、そこには「新しい案件」が次々と入ってきて、結果的に仕事量はさらに増える。

Kanizphoto / Getty Images

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文=佐宗邦威

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