教育

2023.08.04 10:30

ヒトラーが落ちた有名美大に上流の子息でない僕が留学できた理由

石井節子

オーストリア国立ウィーン美術アカデミー美術学部抽象絵画科在学中の長澤太一氏(撮影=高以良潤子)

長澤太一氏は東京都立総合芸術高校美術科油画専攻在学中に、あいちトリエンナーレ2019「表現の不自由展」炎上を体験。東京芸大油画受験をやめ、卒業後1年間の進学準備を経て2022年10月、オーストリア国立ウィーン美術アカデミー美術学部抽象絵画科に進学、現在在学中だ。

ウィーン美術アカデミーはかのアドルフ・ヒトラーが受験し、落ちた美大としても知られる。ヒトラーは画家になれなかったために政治の世界に進んだともいわれているのだ。

長澤氏はラファエル・キルヒナー、エゴン・シーレなど稀代の芸術家を輩出したこの有名美大で今どう学び、どう暮らし、何を思うのか。以下、現地からのレポートである(5ページ目には作品も多く掲載した)。

※本記事は、長澤氏執筆の海外美大受験って上流階級の営みじゃね?(受験体験記・ウィーン美術アカデミーを一部編集の上、転載するものである。


ぼくは都立総合芸術高校に通っていて、周囲が皆当たり前のように芸大を目指すという環境だったので、自ずとぼくも東京藝術大学の油画専攻の受験を考えていました。しかし、2018年のあいちトリエンナーレの「表現の不自由展」騒動で、日本におけるアートの受容のされ方や、表現そのもののあり方、美術業界の既得権益性に違和感をより一層強く感じるようになり、海外への憧れは大してありませんでしたが、嫌でも日本を出なければならないと考えるようになりました。

コロナの影響で、高校卒業後すぐに現地に行くことは叶わず、ドイツ語を勉強しながら、日本からオンライン受験という形で受験準備を進めました。

ぼくについて

ぼくは地元の公立小・中学校出身で、高校は公立の東京都立総合芸術高校美術科卒業。帰国子女でもなければ、留学の経験は当然なく(短期留学の経験もないです)べつに海外の生活に対する憧れもそこまでありません。

英語は、中高の英語の授業を真面目に聞いて、毎度毎度の定期テストや小テストで点を取るための勉強をしていた程度で、大学入学共通テストの得点は8割、リスニングは7割です。英会話教室など行ったことはないし、ドイツ語なんて高2の冬に初めてアルファベットを知りました。

海外大学進学は上流階級の営みか?

たしかに、留学先の国(米英など)によっては高額な学費や生活費がかかるので、「上流階級の営み」というのは否定できません。しかし、よく調べてみると、努力次第で日本で大学に進学するよりも安く総費用を抑えることができる国は多数ありますし、奨学金という可能性もあります。「留学=上流階級の営み」はよく調べてみたことがある人にしか解けない誤解だと思います。例えば、ぼくが進学するウィーン美術アカデミー(オーストリア)の場合、

・EU以外の国籍(日本含む)の場合、学費は半年間で€726.72(約11万円)で済む(実際は入学後に手続きをすれば全額返金されるので実質無料)。

・受験料は無料

・€75(約1万円)で半年間、ウィーン市内の地下鉄、トラム、バス、ÖBB(国鉄)、ウィーン地方鉄道が乗り放題になる。

・学生の健康保険(強制加入)は月€66.79で少し高め(約1万円。その代わり、治療内容にもよるが基本的にヨーロッパの公立病院での治療が無料になる。また、年に一度無料で健康診断を受けることができる)。

・家賃は、学生寮のWG(シェアハウス)なら昨今の恐ろしい物価上昇をもってしても月€300から€400(約4万5千円〜6万円)で収まる(家賃には無料WiFi、光熱費、水道代、毎週の掃除代が含まれていて、中には朝食代が込みの場合もある)。

・食費は節約すれば月€170(約2万5千円)程度。

学費は実質無料なので、それを踏まえて費用をすべて合算すると年間でおよそ€6594〜€7794(約100万〜119万円)。すきなことをするのに使う雑費は現地でバイトをして賄うことを考えれば、基本料としてはこの金額があれば生活はできるという事です。
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文=長澤太一(担当=石井節子)

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