事業継承

2023.06.03

持続可能な経営、必要なのは家族と「コミュニティ」

PFVの年次総会。メンバーの12のファミリーから100名を超える人々が参加した(Photo by Michael Boudot)

伝統ある12のワイン生産家族で構成される、プリムム・ファミリエ・ヴィニ(PFV)という団体がある。1992年に結成されたこの団体のメンバーには、仏ボルドー1級のシャトー・ムートン・ロートシルト、アルザスの老舗ヒューゲル、伊トスカーナの名門アンティノリなど、各ワイン産地を代表する生産者が名を連ね、世界のワイン愛好家にとって垂涎の的であるワインを世に送り出している。

ワインは歴史や文化を表すものだ。ヨーロッパなど古くからワインを造る産地に行くと、特にそれを感じる。PFVのメンバーが創り出すワインは、何世代も受け継がれてきたもので、その家族の歴史や表すクラフトマンシップであり、伝統工芸品とも言える。このようなワインを次世代につないでいくことは、その土地の宝を守ることでもある。
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世界最高峰のワイナリーが家族経営を続ける理由

しかし、何世代にもわたり家族経営を守り、発展し続けていくことは容易ではない。PFVのメンバーはいずれも世界トップクラスのワイン生産者であるが、それでも、未来永劫、当たり前に家族経営でブランドを守っていけるとは思ってない。

では、メンバーにとって家族経営が何を意味するかといえば、ワインビジネスにおいて短期的な利益にとらわれず、長期的な視点を持てるということだ。

PFVの目的は多岐にわたるが、中核となるのが、知識や経験の共有だ。ワイン造りから販売まで、さまざまな話題を相談し合え、ときには協業することができる、コミュニティを形成しているとも言える。

例えば、持続可能なワイン造りの先駆けであるメンバーから他のメンバーが学んだり、ワイン業界が直面する気候変動問題についても、意見や情報や経験を共有し、ともに対応策を考えている。

もう一つの大事な活動が、次世代の育成だ。伝統工芸を継承することの難しさはワインに限ったことではないが、そのカギは、将来の担い手に若いうちから意識を芽生えさせることにある。

年次総会に参加していた次世代を担う子供たち(Photo by Michael Boudot)

年次総会に参加していた次世代を担う子供たち(Photo by Michael Boudot)


PFVのメンバーたちは、自分の親や親戚だけではなく、他のワイン産地で名声を持つ先達と交流することで、代々引き継いているものがいかに特別なものかを実感できる。また、国を超えてメンバーが集う年次総会などを通して、若い世代がより広い視野を持ち、考える力や先を読む力を養っている。
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文=島 悠里

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