キャリア

2023.04.05 18:00

「我流」の落し穴

Forbes JAPAN編集部
1914
広岡氏は、監督に就任して、まず、選手たち全員に「守備の基本」である「ゴロの捕球動作」から教えようとした。しかし、ベテランの選手たちは、「それは分かっている」「自分達が学ぶことではない」と、その練習に参加しなかった。だが、それでも、広岡氏は、若手選手に熱心に守備の基本を教え続けたところ、彼らは目に見えて上達していった。

すると、その若手選手の成長する姿を見て、ある日、ベテランの選手が監督室にやってきて、「俺たちにも教えてくれ」と言ったという。

これは、プロ野球界では有名なエピソードであるが、そこから、チーム全体が成長し始め、遂に、優勝を手にしたのである。

このエピソードに象徴されるように、ビジネスの世界でも、ベテランの人材で、「基本」を疎かにし、「我流」に流されている人材は、ほとんどの場合、「自分は、これでやってきた」「自分は、これで実績を挙げてきた」というプライドと慢心が、彼らの「成長の壁」になっている。

そして、こうした人材は、自分が「基本」を疎かにしているため、自身のさらなる成長の可能性を潰し、仕事の飛躍の機会を失っていることに、気づかない。

実は、「成長の壁」に突き当たっている人材の多くは、この「我流の落し穴」に陥っているのだが、その根本には、心の中の「頑迷なエゴ」がある。

すなわち、「我流」の「我」とは、「自我」の「我」、「頑(かたく)ななエゴ」に他ならない。


田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院名誉教授。シンクタンク・ソフィアバンク代表。世界経済フォーラム(ダボス会議)Global AgendaCouncil元メンバー。全国7700名の経営者やリーダーが集う田坂塾・塾長。著書は『死は存在しない』など100冊余。

文=田坂広志

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