経済

2023.02.24 10:30

米国に迫る「リッチセッション」、高級ブランドは生き残れるか

遠藤宗生
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Getty Images

景気が低迷すると、多くの人が消費を控えて節約する一方で、富裕層はそれまで通り消費を続けるというのが、これまでの常識だった。

だが、米経済が今後、リセッション(景気後退)入りするときには、富裕層はむしろ痛みを共有し、その痛みが富裕層の消費に依存する高級ブランドにも波及する見通しであることが、最近の兆候から示されている。

米紙ウォールストリート・ジャーナルの記者ジャスティン・ラハートはこれを「リッチセッション(富裕層中心の景気後退)」と呼んだ。堅調な雇用市場に守られている多数派の庶民より、少数派の富裕層が経済低迷のあおりを大きく受けるとの見通しだ。

最近、高収入の専門職には解雇の波が到来しており、そうした人々が資産を持つ株式市場や住宅市場は逼迫(ひっぱく)している。

ラハートは2023年の展望として「富裕層御用達の企業がこれから失望を味わうかもしれない。一方、気取った人々よりも庶民を大事にする企業には追い風が吹くかもしれない」と書いている。

消費は昨年末に急ブレーキ

昨年の決算で、本来なら売り上げが増える年末の四半期に多くの高級ブランドの売り上げが伸び悩んだり、減少に転じさえしたことは、来る「リッチセッション」を予感させるものとなった。

昨年860億ドル(約11兆5770億円)を売り上げた業界最大手のLVMH(モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン)は、第1〜3四半期に2桁の成長率を記録した後、第4四半期には減速し、既存事業の売上高は9%増にとどまった。

グッチを保有するKering(ケリング)は、昨年の売上高が218億ドル(約2兆9340億円)と、LVMHに大きく水をあけられての業界第2位で、第4四半期の既存事業売上高は8%減少。地域別では、北米が15%減、アジア太平洋が19%減だった。

そのほか、Estée Lauder Companies(エスティローダー カンパニーズ)、ヴェルサーチやジミー・チュウ、マイケル・コースといったブランドを持つCapri Holdings(カプリ・ホールディングス)、コーチ、ケイト・スペード、スチュアート・ワイツマンなどを展開するTapestry(タペストリー)、そしてCanada Goose(カナダグース)の売上高も、第4四半期には減少。Ralph Lauren(ラルフ ローレン)の売上はわずかに1%増加したが、8%と5%の増加だったその前の2四半期から伸びは鈍化した。

小売業界ではNordstrom(ノードストローム)の売り上げが昨年10月までの3カ月に2.9%減少。Neiman Marcus(ニーマン・マーカス)とSaks Fifth Avenue(サックス・フィフス・アベニュー)は上場企業ではないため業績は公開していないが、いずれも最近、人員削減を発表しており、決して良い兆候とは言えない。
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翻訳=溝口慈子

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