秋山咲恵 /「政策決定プロセス」にもイノベーションが必要だ【G1「100の行動」】

フォーブス ジャパン7月号より

「テクノロジーを通して社会の役に立ちたい」―。これが私の思いです。

さまざまな課題の解決につながり、人々の生活をよい方向へ変えていく可能性を秘めた新しい技術が登場した時に、既存の制度や法律が制約となったり、逆にルールがないことで実用化が進まないということが起きています。

例えば、いま話題になっている、小型無人機「ドローン」。首相官邸の屋上や長野県の善光寺境内への落下などの問題が注目を集めていますが、航空法が規制している高さ以下の高度(航空路管制圏等以外の場所であれば250m未満)は明確なルールがないのが現状です。安全確保と技術の活用をバランスさせる制度設計をできるだけ迅速に進める必要があります。

現在、政府の国家戦略特区ワーキンググループ委員として参画している「近未来技術実証特区検討会」(平将明内閣府副大臣、小泉進次郎内閣府大臣政務官の私的諮問機関)では、遠隔医療・遠隔教育・自動飛行・自動走行などの新し技術を、大胆に実証実験するフィールド(特区)をつくり、制度整備や規制緩和を通じて社会や産業のイノベーションを喚起していきたいと考えています。

私は委員として、国家戦略特区の制度設計からスタートして、法案成立、特区募集と選考、要望のある規制改革項目の検討と各省庁との折衝などにかかわってきました。

この特区では、国と地方と民間事業者が一体となって新しいチャレンジを実行可能にする権限を持つ「区域会議」という仕組みを作りました。
それにより、例えばドローンでいえば、これまではできなかった実証実験が特区限定で実施できるようになったのです。
実証実験を行うことで、技術のみならず社会への影響も検証し、今後の制度設計への実証データを提供することも可能になります。

私自身、産業用検査ロボットメーカーの経営者として、技術で社会に貢献したいという思いが強いこともありますが、政府審議会など多くの会議に参加させていただいた経験は、「政策決定プロセスにもイノベーションが必要だ」ということに気づくきっかけとなりました。

政府の会議で“べき論”をくり返すだけでは岩盤規制の突破になかなかつながりません。細かい規制の見直しひとつにも膨大な時間とエネルギーが必要な現状を目の当たりにして、法案作成や法律制定までしっかりと後押しできるようなムーブメントが必要だと考えるに至りました。

では、どうすればいいか―。そのひとつとして、「G1 100の行動」が位置づけられると考えています。
「G1 100の行動」は、これからの日本のあるべき姿を具体的な行動計画として提言するもので、多くの人々による議論を喚起し、改革を実行する各分野のリーダーを応援していく試みです。そして、「100の行動」の進捗を「見える化」することで、改革が前に進んでいることをみんなで共有できる点に意義があります。

提言母体となる「G1サミット」というコミュニティには、実際に政策決定に関わる立場にある政治家を含む幅広い分野のリーダーが参加し、皆が「日本をよくしよう」と一丸となり、7年間にわたって活発な議論を重ねてきました。

私自身、スタートした2009年から参加し、現在はアドバイザリーボードメンバーとして運営にも携わっていますが、「批判よりも提案を」「思想から行動へ」「リーダーとしての自覚を醸成する」という基本精神はG1コミュニティに浸透しています。影響力と行動力のあるリーダーたちによる改革プラットフォームに成長してきたことを誇りに思っています。

G1「100の行動」とは
「G1サミット」の代表理事であり、グロービス経営大学院学長の堀義人が発起人となり、「G1政策研究所」のメンバーと議論しながら、日本のビジョンを「100の行動計画」というカタチで国民的政策論議を喚起しながら描くプロジェクト。
どんな会社でもやるべきことを10やれば再生できる。閉塞感あるこの国も100ぐらいやれば明るい未来が開けるだろうと、東日本大震災直後の2011年より開始した。
現在、100の行動のうち、92が公表されている。

笠井爾示 = 写真 辻本 力 = 構成

この記事は 「Forbes JAPAN No.12 2015年7月号(2015/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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