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2022.11.17 12:30

都市の色公害と闘う1000色の塩ビシート 売上ゼロからの大逆転

石井節子

実はこのアワード、作品には中川ケミカル製にかぎらず、どのブランドの製品を使ってもOKという。「とにもかくにも優れた表現であればいい。一企業の利益のために主催しているのではないという点も、錚々たる方々のご賛同を得られた理由の一つだと思っています」

中川幸也はこうして、「色公害」を防ぐべく、街の空間を豊かに彩る色彩計画に向けて動き出していく。

「弊社は行政組織ではなく一民間企業。だから行政指導的な色彩計画自体には携われなくても、それらを設計するプロが使う材料を作ることはできます。さらには、わかりやすい『色彩のツール』を作ることもできます。

そこで中川は次なる施策として、日本色彩研究所と共同で、世の中にあるあらゆる色を調べ始めました。よく使われている色は何か、あまり使われていないけれど備えておくべき色は何か。そして、市場調査を重ね、研究所が推奨するPCCS(Practical Color Co-ordinate System:日本色研配色体系)に基づいて屋外装飾用シートを作ったのです」

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PCCS(Practical Color Co-ordinate System:日本色研配色体系)に基づいて屋外装飾用シート。小林氏が見せているのは「色相」のページ

色は「色相」「明度」「彩度」の3属性で表すことが一般的だが、日本色彩研究所によって開発されたカラーシステムは、横に「色相」、縦に「トーン」(「明度」と「彩度」を融合したもの)を配した「2軸」の考え方に落とし込まれている。

「色相環を提示したことで、その色を見ただけで誰でも調和のとれた配色を取ることができるカラーシステムとなりました。これは色彩計画に非常に有利な色だったし、これまで以上に使いやすい材料を世の中に送り出すことができたといえます」

CIブームは終焉を迎えるも──


その後、1990年頃にはCIブームが終焉を迎え、他社との競争は激化する。素材自体も熟成期に移行し、業界全体が「色数を減らす」傾向にシフトした。そんな中でも中川ケミカルは、今なお社内で色彩研究を続けているという。

「インクジェットでプリントした装飾が主流になった現在でも、わが社では1000色以上のカラーバリエーションを在庫として持っています。確かに、インクジェットの場合、白のシートさえあればどんな色にでもプリントできるので、安くて、早くて、簡単です。

業界が色数を減らす傾向に向かう理由もわかりますが、中川ケミカルには色の考え方が脈々と受け継がれていて、今は、デザインやアートの分野で重宝されています。実は、カッティングシートの上にインクジェットプリントすることもできます」

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中川ケミカルのシートには「黒銀箔」も
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構成=石井節子 協力=堤直子

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