キャリア・教育

2022.11.20 11:00

和食とエルメスに行列するパリで「日本の手仕事」を伝えるには

鈴木 奈央
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Creation as DIALOGUE

織物、漆、染色……名古屋に根付く伝統工芸を、海外マーケットで展開するために何ができるだろうか。名古屋市が2021年から主催するプロジェクト「Creation as DIALOGUE」では、職人とデザイナーが共創し、2022年10月、パリで1回目となる展示会を開催しました。前編に引き続き、これまでの道のりと「地域の価値の作り方」についてお話しします。

1. 白紙からのプロジェクト
2. 手元の価値を再認識
3. チームの作り方
4. マスターマインドの作り方
5. 場所と時期の選び方
6. 情熱の伝え方

4. マスターマインドの作り方


海外でどのように自分達の価値を伝え、販路を築くか。ものづくりと同時に、プロジェクトスタート時から行ったのが勉強会です。さまざまな実践者との話を通じて、ボードメンバー全員の共通認識=マスターマインドを作ることを目指しました。

プロジェクトメンバーのデザイナーのほか、ヨウジヤマモトなどで社長を歴任された齋藤統さん、シャネルジャパンなどの社長をされたハンスペーター・カペラーさん、ユナイテッドアローズ創業メンバーの栗野宏文さん、クールジャパン機構初代社長の太田伸之さん、高島屋社長の村田善郎さん。文化を超えてビジネスをされている方々の経験や知見、目線を通じて、日本の価値の生み出し方や落とし穴、コミュニケーションメソッドなどを共有しました。



その話の中には、一つの価値を異なる地域でどのように輝かせるかのエッセンスが多大にありました。

例えば、80年代初頭に、それまで華やかでカラフルだったファッションシーンに「黒の衝撃」を与えたヨウジヤマモトは、欧州になかったアシンメトリーやオーバーサイズ、ほつれたディテールなどの異なる美意識を持ち込みました。それは、既存のヨーロッパの価値観に殴り込みをかけるような研ぎ澄まされたデザインであった反面、その普及のためには、現地での草の根レベルの情熱的で人間味のあるコミュニケーションがあったと斎藤さんは言います。

カペラーさんは、香水を使わない日本に「シャネルNo.5」を初めて持ってきた先駆者。販路先の日本の生活を深く学ぶ中で、「お中元」という欧州にない文化があることを知り、またシャワーでなく入浴を好む日本人に、香水と同じ香りの石鹸を作ることで生活様式に入り込んでいったそうです。

日本の職人さんは技術を誇りにしています。それは長年かけて培ってきたかけがえのない価値ですが、それを活かすには、使い手の立場に立ったデザインと、その価値を伝えるストーリーが必要になります。これは自分の経験にも共通します。

勉強会ではさらに、価格設定や商習慣の違いなど、日本以外の地域でどのようにビジネスを成立させるかなどのシャープな意見も共有され、プロジェクトに関わる全員が、より具体的に「ものを売りに行く」というマインドを培いました。
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文=村瀬弘行

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