経済・社会

2022.10.24 14:30

米国の中国人学生へのビザ発給減が描く米中関係の全体像

安井克至
1977
しかし、中国国民の米国に対する認識の変化は、外交関係の悪化という徐々に顕在化するものだけが理由ではない。グローバル・ガバナンスを研究するワン・ウェンは米ニューヨークタイムズへの論評で、1990年代には中国国民の間で米国に対する一般的な憧れがあったが「米国の海外での戦争、無謀な経済政策、破壊的な党派の争いを何年も目にし、そして昨年の米議事堂への不名誉な襲撃が決め手となって、私を含む多くの中国人はもはや輝く道標をほとんど認識することができない」と書いている。

その結果「中国人留学生は今でも米国の大学で勉強したいと思っているが、米国の銃による暴力、アジア人への攻撃、スパイのレッテルを貼られることを強く恐れている。中国人留学生は不吉なアドバイスとともに送り出される。そのアドバイスとは『キャンパスから出るな、発言に気をつけろ、いさかいから離れろ』だ」とウェンは書いた。

国際的な緊張や学生ビザの減少にもかかわらず、中国人留学生は米国への留学生の大部分を占め続けている。同時に、中国人の学生ビザの減少傾向は、インドからの留学生に発給される学生ビザの増加と同時に起こっている。高等教育専門紙Chronicle of Higher Educationによると、インド人学生への学生ビザ発給数は昨年から45%、パンデミック前の3年前からは148%増加しているという。

経済的流動性を期待できることが米国での学位取得を目指すインド人学生の増加の主な動機となっている。さらに、インターネットで留学情報の入手が容易になったことや、経済力がさほどない学生が学生ローンをこれまでよりも利用できるようになったことで、インド人学生にとって米国留学はより魅力的で実行可能な選択肢となった。

パンデミック以降、F-1学生ビザ申請の承認率は軒並み上昇し、特にインド人申請者の承認率は95%で、2015年の40%から大幅に上昇している。このビザ発給の承認率アップは当初、米国の大学がパンデミックによる留学生の減少から回復するためのものだったが、米国の学位を求める中国人留学生の数が減少傾向をたどる中、今後も重要な意味を持つ可能性があり、米中関係の現状は中国人留学生の減少が今後も続くことを示している。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事