ビジネス

2022.10.14 16:30

「器のサブスク」で伝統産業と飲食店をつなぐ 陶磁器の老舗が始動

鈴木 奈央

陶磁器の老舗「たち吉」

サブスク流行りの昨今だが、「器のサブスク」という考え方はこれまでなかったのではないだろうか。

この新しい試みを始めたのは、陶磁器の老舗、「たち吉」だ。その歴史は古く、1752年、江戸時代の京都に遡る。それから270年にわたり、卓越した食器の作り手として、また、各産地から名品を集積する目利きとして、日本の陶磁器の歴史に確かな足跡を残してきた。

しかし、生活の多様化、個食化、食の簡便化などから、食器を使う機会自体が減っている今、伝統産業である各地の窯元は危機に瀕している。そこで縮小する国内陶磁器市場のトップメーカーとして、たち吉が新たな成長戦略が見込まれるサブスクリプションサービスを始めた。

この9月から本格稼働した試みだが、具体的には、飲食店向けのBtoBのサブスクと、一般消費者にむけてのBtoCの二本立てで、現在は、BtoBに比重がおかれている。

料理店、ことに日本料理は季節ごとの器を揃えなければならないなど、器への出費が大きな負担となっている。満足がいくまで揃えるとなるとかなりの資金力が必要となるが、多くの店はそこまで潤沢ではない。開店のハードルを上げているのもそこである。一度に四季の小鉢、小皿、平皿、ガラス器、漆器と全部完備するのは至難の業だ。

そこでたち吉は、陶磁器の流れを“川上”(作家、窯元)、“川中”(たち吉)、“川下”(料理店)と位置づけて稼働させることで、サブスクを可能にした。つまり、生産者の器をたち吉が買い取り、料理店にリースするということだ。



例えば、多種多様な器を一つの窯元や一人の作家の作品で全部そろえることは難しいが、川上である日本中の生産者を熟知したたち吉なら、川下である飲食店の望む器を随時注文、買い取りすることができる。飲食店が必要とする器だけをリースすることが可能になるというわけだ。

川上の生産者にとっては安定的な需要が生み出されというメリットがあり、生産者の技術の後継にもつながるであろう。同時に、当然ながら、飲食店が、日本中の生産者にリーチすることも不可能だ。たち吉の指導でオリジナリティの高いプロダクトを格安で使用することができるという利点がある。

このサブスクシステムの主要ターゲットは、30席以下で客単価15000円以上のフランス料理店、イタリア料理店、日本料理店、中華料理店、ホテル、旅館と考えている。現在営業をかけているのは、2457店。うち、ミシュラン掲載店は434店。ミシュランクラスの店舗へのアプローチは、業界への波及効果を高める目的もある。
次ページ > 陶磁器の未来への吉報に?

文=小松宏子

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事