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2022.10.08 13:00

「EQ(心の知能指数)」が米大学生のメンタルヘルス危機を救う

安井克至

Getty Images

全米の大学キャンパスが新入生と在校生で溢れかえっている。新学期の始まりは多くの学生にとって大きな楽しみだが、新型コロナのパンデミック以降のメンタルヘルスに悩む人たちにとっては大きな不安と恐怖がともなう。ここ10年、学生や若年成人の間でうつ病、不安、その他のメンタルヘルス問題を抱える人の数は一貫して増え続けているが、パンデミックはこの危険なトレンドを急激に悪化させた。

最近、ミシガン大学が実施した調査によると、大学生の60%以上が「メンタルヘルス問題の基準を1つ以上満たしている」この数字は、10年未満の間に50%も増えている。調査結果はさらに、疎外されたコミュニティが偏って影響を受けていることも示している。有色人種の学生はメンタルヘルス問題を経験する率が高く、イェール大学の研究チームが2022年に発表した調査結果は、下層階級に属している学生は、他の学生と比べてメンタルヘルス問題に影響されやすいことを指摘している。

キャンパス内のカウンセリングサービスは、増え続ける学生向けメンタルヘルスサービスへの要求に答えようと必死だ。College Pulseの全米2000人の学生を対象にした調査によると、学生の68%はキャンパス内メンタルヘルスサービスを受けたことがない。メンタルヘルスサービスを改善するために大学に何をして欲しいかという質問に対する最も多かった答えは「キャンパス内のカウンセリング・スタッフの増員」だった。

特に大学生の場合、メンタルヘルス問題は、大学における厳しい学問的要求の影響を受けるとともに、そこに影響を与えている。対応が最も難しいストレス要因は何かという質問に対して、57%の学生が授業についていくことだと答え、47%が「よい成績を取ることへのプレッシャー」だと答えた。

また、米国の教育ローン最大手、Sallie Mae(サリー・メイ)の調査によると、卒業できなかった学生の3分の1が、学業を断念した理由としてメンタルヘルス問題を挙げた。こうした統計データは、教室の中で起きていることが、教室外における学生の個人的、感情的、精神的状態と切り離せないことを示している。ではなぜ私たちは、学生の精神的、感情的欲求への対応は、主に教室外の人々の責任だと思い込むのだろうか。

学生の感情的欲求は、彼らの身体的、社会的、さらには知的欲求のすべてに織り込まれている。学力の向上は、知的な追求だけではなく、人の身体的、精神的、および感情的追求を含んでいる。こうした人間的側面はサイロ化している(独立している)とみなすことは、学生に悪影響を与え、高い学問的要求を前にして感情的欲求をコンパートメント化する(ほかと区別する)、という不必要なプレッシャーを加えることになる。大学生のメンタルヘルス問題の急増と戦うために、大学側は教員陣を含む自らのコミュニティが、感情面に配慮した指導と学習のためのツールを備える必要がある。
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翻訳=高橋信夫

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