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2022.09.13 14:00

新発見の微生物化石が複雑型細胞の進化を解き明かす可能性

安井克至
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(c)SASAKI ET AL. 2022/precambrian research

原核生物から真核生物への進化がいつ、どうやって起きたのかは研究者の間で長年の疑問だった。バクテリアなどの原核生物に対して、真核生物は複雑な細胞構造と細胞核を持っている。それは私たちの知っている多細胞生物の祖先である可能性が最も高いと考えられている。

東北大学と東京大学の共同研究チームが19億年前に遡る新しい微生物化石を発見したことで、疑問の答えが見つかるかもしれない。この発見以前、真核生物の存在を示す最古の証拠は、オーストラリア北部の約15億年前の岩石から見つかった藻類の一種の微生物化石だった。

カナダのガンフリント層には、約20億年前に海底に出現した熱水泉のケイ化した形跡がある。米国ミネソタ州北部からカナダ・オンタリオ州にかけて、スペリオル湖の北西湖岸に沿って露頭(岩石が露出している地帯)が横断している。最初の細菌の微生物化石は1954年にそこで発見され、今やガンフリント微化石は生命進化分野の「ベンチマーク」として認められている。

しかし、1970代以降、ガンフリント微化石の多様性に関する研究はほとんどなされず、真核生物の微生物化石の確かな証拠は報告されていない。

それらの微生物化石を再評価するべく、研究チームはガンフリント層の地質調査を実施し、微生物化石を含む岩石を採集した。集めた微生物化石の3次元構造とサイズ分布を調べた結果、チームは5種類の微生物化石を発見した。コロニー型、楕円型、トゲ型、有尾型、および細胞組織内包型だ。

「新たに発見された種類はより機能的です」と東北大学研究員の笹木晃平氏は説明する。「楕円型の微生物化石は、過酷な環境への耐性を高めるように進化した現代のシアノバクテリアに似ています。また、化学分析の結果細胞組織内包型微生物化石は栄養を内部に溜め込んでいたことを示しています」

これは、それらの微生物が栄養を溜め込むことで環境ストレスに耐えられるように進化した証拠だ。トゲ型および有尾型微生物化石は、運動性や細胞間の栄養授受に有利な特徴を示している。これは真核生物の典型的な形態的特徴だ。

「細胞の大きさは定義上原核生物ですが、すでに真核生物の機能を発現させています」と笹木氏は付け加えた。これは、原核生物が機能の多様化を開始して、18~16億年前の真核生物の出現前に進化の準備をしていた可能性を示している。

チームは、当時の特異な環境が微生物形態の進化を促したと推測している。陸塊の衝突と造山運動は大陸の風化を加速した。これが、栄養供給を増やし海水温度を上昇させた。

「そのような環境下で、微生物は生存戦略として形態を多様化させ、真核生物へと進化する準備をしていたのです」と笹木氏は締めくくった。

笹木氏らの画期的発見は、原核生物から真核生物への進化を導いた要因とタイミングの特定に役立つものであり、地質学的意義を提供するだけでなく、生命科学や進化生物学の分野にとっても助けになるだろう。

論文『Evolutionary diversification of paleoproterozoic prokaryotes: New microfossil records in 1.88 Ga Gunflint Formation(古原生代の原核生物の進化的多様化:18.8億年前のガンフリント層の新たな微生物化石記録)』は、Precambrian Research(2022)に掲載されている。

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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