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2022.07.27

インクルーシブ・キャピタリズム、「新たな主役たち」誕生の意味とは

illustration by Yo Hosoyamada


<コラム>包摂的な資本主義、「新たな主役」誕生の意味


「新しいコミュニティ」が2022年7月、発足した。五常・アンド・カンパニーCEOの慎泰俊、READYFOR代表取締役CEOの米良はるか、ライフイズテック代表取締役CEOの水野雄介、WOTA代表取締役CEOの前田遥介、ユニファ取締役CFOの星直人、ジーンクエスト代表取締役の高橋祥子、ALE代表取締役CEOの岡島礼奈、ヘラルボニー代表取締役社長の松田崇弥の8人が集ったこの座談会が契機だ。

彼ら彼女らが中心となるコミュニティの名称や詳細はこれからだが、社会課題解決を目指して、社会性と事業性を両立し、よりよい影響を社会に与える「インパクト・スタートアップ」がつながる場をつくること。そして、政府、自治体、大企業、投資家とも連携し、エコシステム形成に寄与し、次世代の支援も目指すという。

米『Forbes』と『Forbes JAPAN』では、コロナ禍以降、「インクルーシブ・キャピタリズム(包摂的な資本主義)」という概念を提唱してきた。すべての人を包摂しながら発展する資本主義のあり方を意味する言葉だ。以下の話は、重要なので改めて紹介したい。

同テーマを特集したカマラ・ハリス米副大統領の記事にはひとつの実話が出てくる。1989年、カリフォルニア州でロマブリエ地震が起き、サンフランシスコ・オークランド・ベイブリッジの一部が崩落したときの話だ。ハリスはオークランドにいた。「当時のリーダーたちには2つの選択肢があった。橋を元通りにするか。それとも橋の基盤を見直して将来の地震に耐えられるように強化するか」

選ばれたのは後者だ。「私たちはいま、同じ選択肢に直面している」とハリスはいう。そして、私たちが「新しい社会、新しい経済を想像していくこと」が、強く発展するための道につながると提言をしている。

『Forbes JAPAN』は、今回の特集で注目する「インパクト100」が、インクルーシブ・キャピタリズムを実現するための「新しい主役」になると思っている。象徴的な企業は、電気自動車(EV)の米テスラ、植物由来の代替肉の米ビヨンドミート、ドローンを使った医薬品輸送の米ジップライン、成績や活動に応じた大学マイクロ奨学金の米レイズ・ミー、石灰石由来の新素材のTBMらと多様だ。

彼らの共通点は、「多彩で、ポジティブな想像力」で、新しい社会、新しい経済のあるべき姿を想像し、そこに至るために革新的なアプローチをしていることだ。貧困・医療・教育格差、不平等、気候変動―、世界規模に存在する数々の社会課題に対して、それぞれが「新しい解決策」を提示している。

そして、例えば「炭素を出さない」といった負のインパクトを最小限に抑えるのではなく、事業成長すればするほど社会や環境、自然にプラスの価値を創造することを実現している。こうした企業を支えるインパクト投資も欧米をはじめ、世界的に本格化し、「インパクト・エコシステム」の形成もはじまりつつある。インパクト投資の主導者、ロナルド・コーエンは「21世紀は、インパクトを社会の中核とする『インパクト革命』が起きる」と予測する。

この新しい時代への転換期に、次世代も含めて多くの「新しい主役」たちが生まれ、この「新しいコミュニティ」に集い、みなで「ポジティブな未来」を目指していく。それぞれが「自らが描く理想」をもとに、多彩に、未来への希望を灯し続ける。この8人のソーシャルキャピタル(社会関係資本)が起点となり、よき連鎖反応が生まれていく―、そんなムーンショットへの第一歩になればいい。『Forbes JAPAN』もメディアとして支援していきたい。

文=瀬戸久美子 写真=小田駿一 スタイリング=堀口和貢 ヘアメイク=石川美幸 / 高松れい 制作 コーディネート=榛葉友輔(Empire Entertainment Japan) 美術=村山一也(目黒工芸) 照明=伊地知新 機材=アップルボックス

この記事は 「Forbes JAPAN No.097 2022年9月号(2022/7/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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