ビジネス

2022.07.24 11:30

1億円の年収でも楽しくなければ必要ない。リーダー候補たちの心理の壁

坂元 耕二

photo by shutterstock.com

「マネージャーになりたくないんです。全然楽しそうじゃないし、むしろつらそうなので」。

5年ほど前、若手との会話の中で聞こえてきた衝撃的なセリフでした。コンサルティングファームに入り、自分を成長させることや顧客に付加価値を提供すること、そのスピードを加速させることが正義であることを信じて疑わなかった私は、その若手の言葉の理解に苦しんだことを覚えています。

これはコンサルファームに限らず顧客企業からもよく聞く話であり、本稿の読者の中にも、これ以上ビジネスマインドやビジネススキルに磨きをかけ、組織の中で地位を高めることに対し、意義を見出せなくなりはじめている方もいるのではないでしょうか。私もファーム内でポジションが上がるたびに、加速度的に業務量が増え、プライベートが削られる思いをしながら、個人の幸せについて思い悩んだ経験があります。

今回は本連載の最終回として、ビジネスパーソンにとっての幸せについて論じ、連載を総括したいと思います。

年収800万円と1億円、果たしてどちらが幸福か?


年収と幸福度の相関を示す興味深いデータがあります。

2019年に内閣府がまとめた「満足度・生活の質に関する第1次報告書(※)」によると、対象者1万人に「現在の生活にどの程度満足しているか」を0点から10点の11段回で評価してもらったところ、次のような結果が出ました。(単位・点)

年収300万円以上500万円未満の幸福度が5.68、年収700万円以上1000万円未満では6.24です。その差は0.56あるのに対し、年収700万円以上1000万円未満と3000万円以上5000万円未満(6.6)を比較すると、その差は0.36にまで縮まります。

特筆すべきは、2000万円以上3000万円未満の6.84をピークに、3000万円以上は年収が高くなればなるほど幸福度が下がることです。年収1億円以上に至っては年収700万円以上1000万円未満の6.24よりも低い6.03に過ぎません。


※資料補足:「満足度・生活の質に関する調査」では「現在の生活にどの程度満足しているか」について、0点から10点の11段階で満足の度合を質問し、「全く満足していない」を 0点、「非常に満足している」を 10点として調査を実施したものになります。「World Happiness Report 2019」では、1 位フィンランド(7.769 点)、2 位デンマーク(7.600 点)、3 位ノルウェー (7.554 点)、15 位英国(7.054 点)、17 位ドイツ(6.985 点)、19 位米国(6.892 点)、24 位フランス(6.592 点)、36 位イタリア(6.223 点)、54 位韓国(5.895 点)、58 位日本(5.886 点)、93 位中国(5.191 点)。


年収800万と年収1億円なら、より豊かな暮らしができるであろう年収1億円の方がはるかに幸福だろうと思いますが、どうやら現実はそれほど単純ではないようです。

あなたの身近にも、人が羨むような地位や名声に恵まれ、多額の報酬を得ているにもかかわらず、浮かない顔をしている人はいるのではないでしょうか。もしかすると、そのつまらなそうな表情の後ろにはお金では解決できないプレッシャーがあるのかもしれません。
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文=中村健太郎(アクセンチュア)

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