男性が飲む経口避妊薬、低副作用「非ホルモン性ピル」実用化へ

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男性向け経口避妊薬(ピル)に長年取り組んできた科学者たちの悲願が、ついに叶うかもしれない。ある研究チームが、予備研究で男性向けの非ホルモン性ピルを開発したと発表したのだ。このピルを投与された実験用マウスは生殖能力を4~6週間失ったが、今のところ副作用は確認されていないという。2022年末から、人間を対象にした第Ⅰ相臨床試験(フェーズⅠ)が始まる見込みだ。

研究に取り組んでいるミネソタ大学のチームによると、このピルが標的にするのは、ビタミンAを人体と結合する物質だ。ビタミンAは哺乳類の生殖能力に不可欠であり、ビタミンA不足の食生活は不妊につながるとされている。

チームは長期間にわたる研究の末、細胞内でビタミンA(レチノイン酸)と結合するレチノイン酸受容体アルファ(RAR-α)というタンパク質の働きを阻害する化合物を発見した。RAR-αのほかにも同様の機能を持つタンパク質は2種類あるが、RAR-αのみを阻害するだけで不妊状態は十分な期間続き、その後は元の状態に戻る。さらに、別の物質への影響はほぼ皆無だった。

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研究チームを率いるムハマド・アブドラ・アル・ノーマンさんは、ギズモードの取材に対してメールで次のように答えた。「妊娠によって自分が苦しむわけではないこともあり、男性が避妊用ピルの副作用として許容できるレベルは女性より低くなります。それゆえに、我々は副作用の起きやすいホルモン性ピルではなく、非ホルモン性ピルの開発に取り組んでいるのです」

雄のマウスに4週間投与、精子の数が激減


この化合物はGPHR-529といい、目的どおりの作用を発揮している。3月23日に、研究チームが米国化学会春季年会で発表したデータによると、雄のマウスにGPHR-529を4週間投与すると、精子の数が激減して不妊状態が続いたという。

「これまでの研究結果は期待の持てるものです。ただし、今後は臨床試験であらゆる薬剤候補の安全性を最終確認しなければなりません」とノーマンさんは述べる。

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その後、研究チームはさらなる開発のため、ユアチョイス・セラピューティクス社にGPHR-529のライセンスを供与するとともに、ほかの有望な化合物を探す研究も続けている。GPHR529が失敗に終わった場合に備えるためと、当初の目的に照らし合わせて、薬量を減らしても同程度の避妊効果を得られるように改良するためだ。

男性用避妊薬としては、ジェル型のNES/Tも開発が進んでいる。NES/Tは精子とテストステロンという男性ホルモンを減らす一方で、副作用を抑えるために減少したテストステロンを補う。2023年初頭に大規模な後期第II相(フェーズⅡb)臨床試験が完了する見込みだが、それ以降の臨床試験を行うにはアメリカ食品医薬品局(FDA)の承認が必要だ。


(この記事は、英国のテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」からの転載記事である。)

翻訳=加藤今日子 編集=石井節子

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