ライフスタイル

2022.05.28 18:00

果てしなき人間の食欲──小山薫堂×松原始スペシャル対談

Forbes JAPAN編集部
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100年後の食事は豊か?


小山:松原先生は、100年後の食事はどうなっていると思われますか。

松原:天然ものを食べられる機会は激減するでしょうね。世界中で培養肉の研究が進んでいるし、いまもチキンナゲットとかサイコロステーキとか完全に成型されて元が何かわからないものもあるし。天然ものを扱うレストランが差別化されて残るかなと。

小山:「リアルな肉を使っています」というのが、売りになる。

松原:超高級店の自慢の一品が、天然のイワシ1匹なんてね(笑)。

小山:培養肉についてはどう思いますか。

松原:培養肉までは許容範囲かな。あれはむしろプロダクトという感じがするので。ただ、サバにマグロを産ませるとかになると、サバが大変だなと。「そこまでしてマグロ食いたいか?」とはちょっと思います。

小山:すでにそういう試みが?

松原:実験的にはスタートしています。サバとマグロでは免疫不適合がほぼ起こらない。だからサバにマグロの卵細胞を導入してやればマグロの卵を産んでくれます。

小山:まあ、すでに人間はこれだけ動物を家畜化しているわけで、培養肉がどうだというのは少し綺麗事かもしれません。

松原:確かに。ただ、一方でもうこれ以上増やさなくてもいいだろうという気もするんです。食いたいものを何でも食っていいかというと、それはそれで下品だなという気がしなくもない。食欲が怖いというより、その食欲を利用して商業ベースにもち込むことがいちばん危険ではないかと。

小山:つまり、ビジネスを目的とした食のイノベーションは要注意ということですね。食についての考察がさらに深まりました。ありがとうございました。

今月の一皿

カレーの名店「FISH」のカレーライスを再現。松原の好きなフェンネル含めスパイスの複雑な香りがたまらない。



blank
都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気が置けない仲間と集まる秘密基地。




小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わり、2025年大阪・関西万博ではテーマ事業プロデューサーを務める。

松原 始◎1969年、奈良県生まれ。動物行動学者、東京大学総合研究博物館特任准教授、京都大学理学博士。研究テーマはカラスの行動と進化。著書に『カラスの教科書』『カラスの補習授業』など。『じつは食べられるいきもの事典』は第2弾も出版された。

文=小山薫堂 写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN No.093 2022年月5号(2022/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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