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2022.03.29 08:30

「極度の貧困層」に届け! 五常・アンド・カンパニー慎泰俊が財団を設立して目指す世界とは

山本 智之

一般財団法人五常を設立した五常・アンド・カンパニー創業者兼代表執行役の慎泰俊

途上国における中小零細事業向けマイクロファイナンス(小口融資)を展開する五常・アンド・カンパニー創業者兼代表執行役の慎泰俊は2022年2月、一般財団法人五常(以下、五常財団)を設立した。

慎が14年7月に創業した五常・アンド・カンパニーは、民間版世界銀行を目指し、「2030年までに50カ国で1億人以上に低価格かつ良質な金融サービスを届ける」ことを長期目標に掲げている。同社は20年12月、シリーズDで第一生命保険や丸井グループ、TGVest Capital、Baillie Giffordなどから70.7億円調達し、累計調達額は146.7億円。21年9月には、タジキスタンを代表する預金取扱マイクロファイナンス機関のCJSC MDO “HUMO”(Humo)をグループ会社化。5カ国8社のグループ会社で、グループ従業員は7500人を超える。また、同社は、融資型クラウドファンディングで22年に数十億円規模の調達を計画し個人を対象とした資金調達をするなど、進化を続けている。

そんななか、慎が個人として財団を設立する理由について、聞いた。


── なぜ、いま、財団を設立したのか。

現在、五常・アンド・カンパニーは、カンボジア、スリランカ、ミャンマー、インド、タジキスタンの5カ国で展開し、顧客数120万人に到達した。世帯人数は平均5人程度なので、600万人以上にサービスを提供している。規模的には、国ではデンマーク、国内だと千葉県の人口と同様だ。顧客が育てている子どもの数はおよそ360万人で、これは日本の児童数の6分の1にあたる。

私たちの顧客の約7割は、1日5.5ドル未満、(世界銀行による国際貧困ラインである)1.9ドル以上で暮らす人たちだ。テクノロジー、ソーシャルインパクトの双方の取り組みを進化させていることもあり、事業として今後、年7〜8割成長で安定的に成長を続け、金融包摂サービスの提供をさらに拡張させていくだろう。ただ、会社であり、出資や借入によって資金調達している未上場企業でもあるため、極度の貧困層と呼ばれる1.9ドル以下については、採算が取れないこともあり、ほとんどサービスを届けられていない。R&D(研究開発)チームが、デザインやテクノロジーを用いながら、極度の貧困層にも届けられるサービスを模索しているが、まだ時間がかかるというのが実態だ。

寄付金を財源にすれば、こうした1日1.9ドル未満で暮らす人たちに向けても事業をすることができる。それが財団設立のきっかけだ。社内でも議論してきたが、会社としては長期的に利益を出すことが期待されている。慈善事業のような取り組みがどこまで会社に許されるのか、という問題意識から、別ビークルを作るのがいいのではないか、と考えた。五常財団のミッションは「一般的な営利企業からは十分なサービスを享受できない人々の生活を向上させる、革新的なソリューションへの資金提供と研究の実施」だ。
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文=山本智之 写真=小田駿一

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