ビジネス

2015.05.25

米国人記者が分析する「トヨタ・マツダ提携」の舞台裏

トヨタとマツダ、業務提携に関する共同記者会見(Courtesy TOYOTA)<br />



先日発表されたトヨタ自動車と、はるかに小さなライバル企業であるマツダの提携は、ひょっとすると、マツダの破綻を防ぐためではないかと思いたくなる。
フォード社 がマツダとの関係を数年前に断って以来、果たしてこの先マツダが生き残っていけるのかと、私はよく疑問に思った。自動車産業は製造コストの高さの割に、微々たる利益しか生めず極めて厳しい状況だ。さらに、新たな規制に対応するために高コストの安全技術や環境への配慮も求められる。フィアット・クライスラーのセルジオ・マルキオンネ会長が、業界再編を目指し、精力的なロビー活動を展開しているのもそんな理由からだろう。

しかし、マツダは手ごろな価格で運転が楽しい車を多数そろえている上に、円安も追い風となり、かなり健闘している。今年3月期末の決算では、マツダの売上高は12.7%増、純利益は17%増となった。それでもマツダは今回の決算で警戒感を示し「世界経済は緩やかな回復が見込まれるが、アメリカの金融緩和政策の転換に向けた動きや、新興国の景気動向、また外国為替相場と原油価格の変動などを背景に、マツダグループを取り巻くビジネス環境はいまだ不透明だ」としている。

言い換えれば、マツダはそういつまでもビジネスが順調にはいかないことをはっきりと自覚しているのだ。だからこそ、マツダは2012年に着手した構造改革プランの実施に今後も邁進するつもりでいる。この構造改革プランは、ひとつは低燃費のスカイアクティブエンジン技術の活用と、さらには国内外の自動車メーカーとの積極的な提携を目指している。

確かにマツダには、研究開発の負担を軽減してくれるトヨタのような強大で資金力のあるパートナーが必要だ。だが、トヨタのような大手企業にも、マツダのように小さいながらも機敏な企業から学ぶことが多々あることを忘れてはならない。
水曜日に日本で行われた共同記者会見で、トヨタの豊田章男社長が、同社からみればかなり小規模なパートナーのマツダを評価したその言葉は、極めて興味深い。日本の報道によれば、豊田社長はこう語った。
「ある意味、マツダは多くの分野でトヨタの先を行っている」

高圧縮エンジンや高効率トランスミッション、軽量のシャシーなどに関していえば、トヨタはマツダに完全に引き離されていると豊田社長は確信している。それに正直言って、スポーツセダンである新型Mazda6(日本名:マツダ アテンザ)やクロスオーバーSUVのCX-5といったマツダの車はトヨタのカムリやRav4よりはるかに運転するのが楽しい。

この、楽しくてワクワクする車を限られた予算で効率良く作り出す能力こそ、トヨタがマツダから学ぶべき事なのだ。
今年中に、トヨタは新たに将来の車づくりの基盤となるモジュール製品開発システムを導入する。これはすでにマツダや他の自動車メーカーも採用している。また、トヨタは長年電気とガソリンのハイブリッドシステムに力を注いできたが、従来型ガソリンエンジン車の改革も進めており、他社製品ではお馴染みのターボチャージングや直噴などの技術をより多く導入する。

マツダはここでも力になれる。というのも、マツダは予混合圧縮着火(HCCI)を利用した次世代型ドライブトレイン技術に取り組んでおり、現在業界トップレベルのSkyActiveドライブトレインより30%燃費を向上させるとしている。このHCCIエンジンは、高温高圧縮のディーゼルエンジンと類似したものだ。

両社のパートナーシップは、現在進行中の少数プロジェクトを基に築かれる見込みだ。例えば、トヨタは日本でハイブリッドシステムのライセンスを、小型のMazda3(日本名:マツダ アクセラ)用にマツダに供与している。さらに、マツダは同社の新メキシコ工場でMazda2(日本名:マツダ デミオ)をベースにしたトヨタブランドの小型車を生産している。しかし、両社とも、技術協力が「従来の提携の枠組みを超える」ということ以外、詳細は言及を控えた。

マツダのSkyActiveガソリンエンジンおよびSkyActiveディーゼルエンジンの技術と引き換えに、トヨタは米国でも発売予定のMIRAIが搭載している水素燃料電池システムやプラグインハイブリッド技術をマツダに供与すると考えるのが自然だ。また、メキシコで行われているような生産協力もさらに増えるだろう。

豊田社長は、両社は互いの中に好機を見始めたに過ぎず「この会見は結婚会見ではなく、婚約会見だ」と語った。
そして結婚とはつまり、お互いが協力し合う関係を意味する。

文 =ジョアン・ミュール(Forbes) / 編集=上田裕資

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