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2021.12.29

人間を機械にしない!「幸福な近未来」への道を見てきた

資本主義の負の面を描いたチャップリンの傑作『モダンタイムス』(FilmPublicityArchive / United Archives / Getty Images)

ディズニー映画の『ファンタジア』をご存知だろうか。「イスラエルの天才」と呼ばれるモービルアイの創業者、アムノン・シャシュア教授は2020年4月にAI(人工知能)倫理に関する論文を発表。論文は1940年の映画『ファンタジア』を紹介している。

魔法使いに弟子入りしたミッキーマウスがホウキとバケツを渡されて、掃除を命じられる話だ。魔法使いが眠りにつくと、ミッキーは横着をして、ホウキに魔法をかける。すると、道具が暴走し始め、井戸から水を汲み続け、家のなかを水浸しにしてしまうのだ。

「テクノロジーの怖さ」とは、ミッキーのホウキのようにコントロールできず、歯止めが効かなくなることである。が、シャシュア教授が言いたいのは、AIの暴走による恐怖ではなく、AIを正しく理解できていない怖さだ。「たとえ暴走しても、何を目指しているか終着地点はわかっている。だから恐怖ではない」と、シャシュア教授は言う。怖いのは目的や効果があやふやになり、人が操られるときだ。

『ファンタジア』の4年前に製作されたチャップリンの『モダンタイムス』は、機械化によって人間が機械の一部に取り込まれていく喜劇である。大量生産時代の機械化と、これから始まるAI化は何が違うのか。その答えを一言で言うならば、「誰を幸せにするか」の違いではないだろうか。

『モダンタイムス』に象徴される機械化は、資本家と消費者を豊かにした。安価な製品を大量に提供して便利になった。しかし、労働者はチャップリンのように単調な作業を強いられていく。学校教育も大量生産の工業化に適合できるような人材を育てるものとなり、結果的に没個性を求める社会となった。

取り残される人々も生まれて、幸せの裏側で過酷さを生みだしたのが20世紀的社会と言えるだろう。人が機械扱いされる社会だ。次に生まれようとしているのが、機械に人間が取り込まれるのではなく、機械が人間に取り込まれる社会である。


2020年1月、CESでウーブン・シティ構想を発表するトヨタ自動車の豊田章男社長(David Becker / Getty Images)

その象徴的な話が2021年12月25日発売「Forbes JAPAN 2022年2月号」内で、ウーブン・プラネット・ホールディングスのジェームス・カフナーCEOが語る「AE」だろう。

AIのIはintelligence(知性)だが、そこに人間のexperience(経験)を組み込み、「知恵」に昇華させるものだ。一言でいうならば、「よき経験」を多くの人で共有しようというものである。同社が進める「ウーブン・シティ」構想の視点が画期的なのは、「カイゼン」という人間の創意工夫を取り入れてきたトヨタ自動車が主体となっている点だ。
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この記事は 「Forbes JAPAN No.090 2022年2月号(2021/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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