マネー

2021.11.17 11:00

既存金融のぽっかりと開いた穴を埋める

安部匠悟と佐保百合子は2019年10月、フィンテックスタートアップのFivotを共同創業。21年1月には、スタートアップを中心とした法人向けのデットファイナンス事業を開始した。顧客の将来債権を買い取り、現金化することでキャッシュインを早めるRBF(Revenue based financing)という手法の金融商品を展開している。

同年4月には、オリエントコーポレーションと共同でモバイルフィンテックアプリ「IDARE」をリリース。バーチャルVisaプリペイドカードや、決済の端数を自動で貯金へ振り分ける機能、独自の審査に基づいた個人融資などの機能を備えた消費者向けアプリで、1万ダウンロードを記録している。

2019年11月、Fivotにシード投資を行ったのが、金子剛士が所属するEast Venturesだ。なぜ金子は投資したのか。


金子:最初にお会いしたのは、安部さんがFivotを創業する前のこと。投資先であるAppBrewのCFO、上村(隆太)さん相談に乗ってあげてほしいと紹介されて、お会いしました。当時、安部さんは弊社の出資先にCFOとして内定をもらっており、入社を悩んでいました。その企業に対する理解や洞察がすごく深くて、こんなに優秀な人はなかなかいないというのが最初の印象でした。

安部:僕も初めてお会いしたときは衝撃でした。金子さんのスタートアップ業界でのネットワークの広さや投資先の数の多さに驚き、この人に相談したら、間違いなく良質な情報が得られるなと。それに、話し相手や投資先の立場をよく考えて、言えることは明確に伝えるけれども、言えないことはしっかり線を引いて話さない。信頼できると感じました。

結局、転職はやめて起業することに決めたのですが、そのご連絡をしたら、「資金はどうされます?明日空いてますか?」と返信がきたんです。それで急きょお会いしてその後の方針をお話しすることになりました。

金子:PPTで3枚ほどの事業計画書をもとに説明してくれたのですが、「新しい銀行をつくる」という最終的な目標を掲げておられて、そのスケールの大きさにびっくりしましたね。僕はシード期に特化して、プロダクトも事業計画書もない段階のスタートアップに普段から投資しているのですが、投資判断のうえでは、その方のお人柄に加えて、コンセプトのシャープさ、つまり、起業家がどれくらい検証するに足る仮説を鮮明に描けているかをひとつの軸にしています。日本の金融機関は、仮に縦軸の企業属性を「新興」と「成熟」、横軸の調達手法を「エクイティ」と「デット」と置いて4象限マトリクスを描くとしたら、新興×エクイティにVC、成熟×エクイティにPE、成熟×デットに銀行と、各ポジションにプレイヤーがいるのに、新興×デットだけぽっかりと穴が開いていて、一方で需要は年々と増えている。安部さんはこの穴を埋められる数少ない人材だと感じ投資したいと思ったんです。

安部:金子さんに対する信頼感は僕のなかで絶大でしたし、そこからは順調に進みましたね。投資してもらって1年半がたちましたが、当初設定したマイルストーンは着実に達成してきたつもりです。僕たちは金融機関としての社会責任や規制がある領域で、かなり難度の高い事業をしている。将来的に「新しい銀行をつくる」ことを視野に入れつつ、まずは法人向けのデットファイナンスと消費者向けのIDAREを両輪でしっかり伸ばしていきたい。

金子:当社は日本でもトップレベルで投資先の数が多いVCで、スタートアップ向けの融資を行う上では営業先の開拓という観点で力になれる。スタートアップは、事業規模が大きくなると、エクイティで追加の資金調達を行うのが一般的ですが、エクイティですべてを賄うと経営陣の株式のもち分がどんどん減ってしまう。デットをうまく組み合わせて利用できることは、調達先の多様性という観点からもメリットが大きい。

佐保:金子さんはいろんな分野の第一線で活躍されている方とのつながりが多くて、相談するとカウンターパートをすぐに紹介してくれたり、「こうするやり方もあるよ」とオプションを提示してくれたりする。私たちの事業を深く理解したうえで、かけ算のシナジーをどう生み出すのかを考えてくださることは本当に心強い。まるで会社の参謀です。

金子:それは言いすぎです(笑)。でも、国内の相当数のスタートアップと交流している自負はありますし、投資先に限らず彼らに対してエクイティとデットの両面で支援できるのは本当に業界にとっていいこと。世の中が変わっていくための大きな一歩になると思うんです。


かねこ・たけし◎East Ventures パートナー。1991年生まれ。同志社大学経済学部卒。ジャフコを経て2015年より現職。シード期のスタートアップに特化した投資を手がける。主な投資先はAppBrew、Seibii、Luupなど(写真左)。

あべ・しょうご◎Fivot CEO。一橋大学経済学部卒。メリルリンチ日本証券(現BofA証券)を経てFivotを共同創業(同中央)。

さほ・ゆりこ◎Fivot CFO。京都大学経済学部卒。メリルリンチ日本証券を経て、安部匠悟とFivotを共同創業。(同右)

文=眞鍋 武 写真=平岩 亨

この記事は 「Forbes JAPAN No.085 2021年9月号(2021/7/26発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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